養老孟司さん「自然で暮らす世の中に」 インタビュー詳報<コロナを生きる>

2020年6月9日 06時49分

養老孟司さん=2017年11月、東京都新宿区で

 解剖学者の養老孟司さんは本紙のインタビューで、都市への人口集中の危険性や社会の空気など、新型コロナウイルスの感染拡大を通して見た日本の今を語った。(聞き手・吉光慶太)
 何が「要」で何が「急」なのか。ちゃんと働く人がいい、というのが今までの常識だった。それが高齢化社会で変わりつつあり、コロナでさらにはっきりした。給付金を見ても面白い。今までお金は労働の対価だった。一生懸命働いてお金をもらうのがまともな生活だとすると、年寄りはまともな生活ができない。それが、働かないで外出しないことがありがたがられ、お金までもらえる。これまでの常識が変わっていくのではないか。
 外出している人を見て回り、見つけると攻撃する「自粛警察」のニュースは、戦時中みたいな雰囲気で日本らしいなと感じた。「自粛」というのは、非常に正体が分かりにくい言葉。本来は自分で考えるはずの「自粛」なのに、誰が決めたわけじゃないけれど強制され、訳の分からないことになった。
 日本の場合、太平洋戦争で「お国のために」というのが「死」の枕ことばになった。それが敗戦でひっくり返って、戦後は「公」がなくなった。今回、行政は飲食店や遊興施設などに営業の自粛を求めたが、強制力を持って営業停止にすると責任を持って補償しないといけなくなる。そうならないために「自粛」という言葉が出てきたのではないか。結果、自粛するか、しないかで国民が分裂した。
 東京で感染者が相次いだことで、都市のもろさもあらわになった。世界中で、都市に多くの人が集中して暮らしている。それを「進歩」とか「経済効果が高い」とか言ってきたが、単に人が集まるようになっただけ。コロナのようなことが起こると、逆に危ないことがはっきりした。
 みんな同じように電車に乗ってオフィスに行って、机を並べる。僕は古い人間だから「当たり前」と思わないけど、当たり前とされることが変わればいいと思っている。
 これまでも都市の人間が田舎で暮らす「参勤交代」を提唱してきたが、その思いを強くした。特に子どもは野山を走り回るのが本来の姿。都会では、きれいな教室に入れてしまって、いろんな学習の機会を奪っている。
 「人に対する世界」と「物に対する世界」を分けてみる。虫を見たり、標本を作ったりする、物に対する世界はコロナであまり影響を受けなかった。人に対する世界に、より影響が出た。
 現代は猛烈な勢いで人を相手にした仕事が増えた。それがサービス業。社会の中で、そういう業種がアンバランスに大きくなり、コロナで大きな影響を受けた。人は社会的な動物。猫は一匹でも暮らしていけるが、猿の仲間はそうはいかない。群れが大きくなればなるほど脳が大きくなる。一番大きな群れをつくるのが人間でしょう。
 田舎では直接いろんな物に触れる。その典型が一次産業。知り合いが栃木県で農業法人をやっているが、希望者が多いと聞いている。お金にならなくても、そういう仕事をしたい人が増えているという。
 みんな自然に直面して暮らしたいと思っているのではないか。コロナによって、そういう世の中に変わっていけばいい。
 ◇ 
 新型コロナは日本と世界に何をもたらしたのか。国内外の有識者の視点を随時掲載で紹介します。
<ようろう・たけし>
 1937年、神奈川県鎌倉市生まれ。東京大医学部卒。専門の解剖学研究の一方、エッセイストとして活躍し、「バカの壁」のほか「唯脳論」「遺言。」など著書多数。東大名誉教授。

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