宝物 励みに 絵本になった谷中「澤の屋旅館」 海外の宿泊客が作る

2020年6月9日 08時21分

フランス人観光客が澤の屋旅館などを描いた絵本を説明する澤さん=台東区で


 谷中の老舗旅館「澤の屋旅館」(台東区)の館主、澤功さん(83)には宝物がある。十年ほど前、フランス人観光客が澤さんや旅の思い出をイラストと文章で記録した絵本だ。新型コロナウイルスの影響でインバウンドは途絶え、旅館の経営は苦しいが「また海外客を迎える日まで頑張ろう」と絵本から励まされている。
 絵本のタイトルは「初めての『懐かしい』ジャポン記」。大きさは縦二十五センチ、横約三十センチで、全百五十五ページのフルカラー。二〇〇八年九〜十月に日本に新婚旅行で訪れたフランス人夫婦が制作し、訪れた場所や出会った人について、優しいタッチのイラストとともに日本語と仏語で記している。

澤の屋旅館の風呂を描いた絵本のページ

◆新婚旅行の拠点

 夫婦は東京に十日ほど滞在。描かれているのは、旅館近くの谷中銀座や浅草寺(台東区)のほか、カメラを購入するために訪れた新宿など。夫婦が旅の拠点にした澤の屋旅館も複数ページにわたって登場する。澤さん夫婦の似顔絵やペットのインコ、旅館の玄関や風呂などが描かれ、「私たちは旅館の部屋がとても気に入った。プライベートで使える日本風のお風呂はさらに気に入った」とコメントも添えられている。澤さんは「二人は風呂なしトイレなしの部屋だったのに『日本人の生活や文化に触れられた』と大変喜んでいた」と振り返る。
 夫婦は約四年後、絵本を届けに再び訪れた。「絵本になるなんて初めてで、そりゃうれしかった」と澤さん。以降、旅館ではロビーの本棚に置き、宿泊者らが閲覧できるようにしている。置いてある他の本は別の本と交換できるが、この絵本だけは「NO EXCHANGE(交換ダメ)」。替えの効かない宝物だ。

◆おもてなし 再び

 旅館の四月の稼働率は通常の1%以下に落ち込んだが、来春の予約が入り始めるなど明るい兆しが見えてきた。売り上げを増やそうと始めた時間制貸し切り風呂も好調で、これまで旅館を利用したことがなかった街の人々とつながりができるなど収穫もあった。
 この苦境に旅館を支えてくれる街の人々に感謝しつつ、絵本を見て澤さんは言う。「今なんとしても頑張って、またお客さんをおもてなしの心で迎えたい」。問い合わせは同旅館=電03(3822)2251=へ。
 文と写真・天田優里
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