萩尾望都(もと)と竹宮惠子 中川右介(ゆうすけ)著

2020年4月26日 02時00分

◆少女マンガ「革命」の影響力

[評]小林深雪(みゆき)(作家)

 少女マンガで革命を起こそう! それまでの少女マンガの枠を超えよう。無限の可能性を自由に追求しよう-。一九七〇年。学生運動が終わりを迎えようとする中、時代は大きく動いていた。東京に上京してきたばかりの二十一歳の萩尾望都と二十歳の竹宮惠子は、西武池袋線の大泉学園駅近くで共同生活をスタートさせる。これが後に「女性版トキワ荘」と言われる「大泉サロン」の始まりだった。そこには、坂田靖子、花郁悠紀子(かいゆきこ)、山田ミネコ、ささやななえこ、佐藤史生(しお)などのマンガ家達(たち)が綺羅星(きらぼし)のように集い、語らい、刺激を受けあった。
 この本は六〇年代の終わりから八〇年代初頭までの、その「マンガ革命」の軌跡を詳細に追った一冊だ。二人がどのようにしてこれまでの少女マンガのタブーを破っていったのか。先駆者たちの想像以上の困難と苦悩と情熱と…。萩尾の『ポーの一族』『トーマの心臓』、竹宮の『風と木の詩(うた)』『地球(テラ)へ…』。二人が生み出した作品は少女マンガだけでなく、その後のカルチャーに大きな影響を与えていく。
 そんな偉大な二人のレジェンドにも、ボツに悩み、創作に苦しみ、他の才能へ嫉妬した若い頃があったことに、改めて驚いてしまう。
 <そうだ、おまえは描いていい。/そうだ、おまえは表現していい。好きな方法で。そうだ、おまえは存在していい。/いかに邪悪だろうとくだらなかろうと、存在しているのだから存在を続けていい。好きなように。望むように。考える通りに。そうしていい。>という萩尾の当時の自分への言葉は、すべての表現者へのエールに聞こえてくる。
 「大泉サロン」から半世紀の時が流れた。今では青年マンガ誌『モーニング』でゲイカップルの日常を描く、よしながふみの『きのう何食べた?』が人気を博している。時代は、人々の意識は、確実に変化した。そして、この作品には『風と木の詩』の「ジルベールのような美少年」という言葉が登場する。大泉サロンの革命の遺伝子は確実に受け継がれ、さらに進化を続けている。
(幻冬舎新書・1034円)
1960年生まれ。作家、編集者。著書『手塚治虫とトキワ荘』など多数。

◆もう1冊 

竹宮惠子著『少年の名はジルベール』(小学館文庫)。著者の自伝。

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