農福連携が農業と地域をおもしろくする 吉田行郷(ゆきさと)、里見喜久夫ほか著

2020年4月19日 02時00分

◆障害者とともに食べていく

[評]橋本克彦(ノンフィクション作家)

 いま、社会福祉法人が農業を経営し、農業側も積極的に障害者を雇用するケースが増えている。こうした活動を「農福連携」という。
 二〇一八年に一般社団法人「日本農福連携協会」が設立され、都道府県でもその前年の二〇一七年「農福連携全国都道府県ネットワーク」が設立された。会員はいまや百の事業所を超えている。
 この本をまとめた執筆者の一人、農林水産政策研究所吉田行郷氏が前提をあげる。現在日本には九百六十四万人の障害者手帳取得者がいる。身体障害者四百三十六万人、精神障害者四百十九万人、知的障害者百八万人。同手帳を取得していない人や、手帳の対象になっていない発達障害者を加えると、何らかの障害のある人々は全人口の一割をかなり超えている。
 本の中心は「農福連携先進事例編」の報告である。各地の事例が細かく紹介され、極めて興味深く面白い。
 鹿児島県南大隅町で四十年前から「障害者と農業で食べていく」という思いで活動してきた社会福祉法人白鳩会に対して「障害者を使って儲(もう)けようとしている」という噂(うわさ)が流れた時期もあった。が、この心無い風評は活動実態を示すことで消えていった。
 白鳩会理事長(当時)の中村隆重氏は「障害者も自らの努力によって自立できるという考え方がここ数年で大きくなってきた」としている。
 どぶろく特区に指定されている石川県中能登町は味噌(みそ)などの発酵文化の復興を町おこしの中心にしているが、その活動のすべてに社会福祉法人つばさの会が農産物を供給するなどして寄与している。
 群馬県では電機メーカーの社員もボランティアで農作業に参加している。作業を教えるのは障害者である。愛知県豊田市でも企業と社会福祉団体の連携が進んでいる。
 もともと村落共同体の懐は深く温かい。相互扶助で成り立つ村には障害者はいないとさえ言える。この本は農福連携を土台にすえて優しい社会を目指す視点を提供している。どの活動も貴重な参考例となるだろう。
(コトノネ生活・1980円)
<吉田>農林水産政策研究所企画広報室長。<里見>季刊『コトノネ』編集長。

◆もう1冊 

里見喜久夫著『いっしょが、たのしい』(コトノネ生活)。障害者福祉施設の日常。

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