メメント・モリ 死を想え! 多死社会ニッポンの現場を歩く 中日新聞社会部編

2020年4月12日 02時00分

◆現代人の死生観に向き合う

[評]島薗進(上智大グリーフケア研究所所長、東京大名誉教授)

 近代人は死を遠ざけてきたと言われる。しかし、古来、死を巡るタブー(禁忌)はある。いずれにしろ、私たちには死から目を背けようとする性向がある。
 だが、「現場」に出かけ、隠されがちな死に関わっている人たちに出会うことで見えてくるものがある。死に向き合うことで知恵を養い、生きる力をよびさますこともできるのではないか。本書の題に、「死を想え(メメント・モリ)!」とあるのは、本書のもととなる取材に取り組んだ記者チームの共通の考えが、以上のようなところにあるのを示している。
 第一部では、骨つぼに入れられずに残された残骨灰、放置され荒れている無縁墓、引き取り手がない遺品や財産やデータや家屋、などが処分されたり売られたりする現場に踏み込んでいる。不快感を表明した読者もいたという。
 死者の尊いいのちと関わる何かが、商品や廃棄物として遇されることが、禁忌の感覚を新しい形で呼び覚ます。だが、そこにこそ人間の人間らしいあり方があらわになっている。その不調和感が現代人の死生を振り返る手がかりになるものだ。
 第二部では、死に直面する人々、死にゆく人に深く関わって生きる人々の「現場」が描き出されている。
 「延命治療」を巡る容易ではない判断に悩む人たち、死後の世話をしてくれる業者とのやりとりに大きな慰めを感じる人、孤独死する人と孤独死者に関わる人たち、派遣僧侶、臨床宗教師、病院での死でもなく在宅の死でもない「ホームホスピス」に集う人たちなど、現代の死の現場に関わる多彩な人間模様が描かれている。
 その多くは孤独だが、これまでになかった新しい死生を経験し表現していて、読者の共感を誘う。
 二十代、三十代の記者たちを含めて、記者やデスクが取材から感じ取ったことをまとめた文章が区切り目ごとに挿入されている。世代間の死生観や感受性の違いを考える手がかりにもなり、多死社会は「死を想う」好機であると確かに感じさせてくれる。
(ヘウレーカ・1980円)
連載をまとめた書籍に『日米同盟と原発』『新貧乏物語』『少年と罪』など。

◆もう1冊

島薗進著『ともに悲嘆を生きる グリーフケアの歴史と文化』(朝日新聞出版)

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