友だち シーグリッド・ヌーネス著

2020年3月29日 02時00分

◆一人と1匹 生と死見つめる

[評]美村里江(女優、エッセイスト)

 体重九十キロ、立ち上がれば二メートルを超えようかという巨大な犬と共に、憂鬱(ゆううつ)の沼へ沈んでいく感覚……。
 しかしそれは中盤から覆り、エンディングでは独特の爽やかさを堪能した。
 通算三度結婚、大学講師もしていた小説家が自殺する。主人公は創作科(ライティング)クラスの講師をしている初老女性。小説家の元教え子であり、長年の友人。関係を持ったこともあるが即終了。小説家の死後も複雑な恋心を燻(くすぶ)らせている中、未亡人「妻3」からの連絡が入り、忘れ形見として白黒斑(まだら)のグレートデン「アポロ」を預かることになった。
 住まいのアパートは狭く、犬の飼育は禁止されている。アポロは捨て犬だったのを小説家が拾った経緯で、心に傷を負っている上に、主人はもう戻らないこともわかっている。頭が良すぎるあまり悲観的で哲学者のよう。その巨体で甘えてくるわけでなく、隣にある物体として主人公にのし掛かってくる。「助けてくれ」とも言わず、音楽に癒やされることもない。そんなアポロを慈しむ主人公の回想には、自殺してしまった有名作家達(たち)の残した言葉が度々登場し、彼女の精神も危ぶまれる。
 そんな重々しい一人と一匹の生活が、主人公の何げない朗読にアポロが反応したところから、徐々に明るさを取り戻していく。
 ……と、ここまでが「正面玄関」からの風景である。
 しかしこの物語には「とびきりのバックドア」があるのだ。さらにそこを抜けると、もうひとつ正面玄関そっくりのドアがある。そこでハタと振り返ってみるが、どこがこの小説の“正面”だったか、もう誰にもわからない。
 訳者村松潔さんのあとがき見解に頷(うなず)きつつ、私は別の意見も持った。アッと驚く「やられた!」系小説とも違う、一種のサプライズを期待して読んでいい物語だ。
 主人公の述懐に沿って、世界的作家の発言や著書の引用が効果的に差し込まれ、読んでみたい本も増えた。まずはアポロも耳を傾けた、リルケの『若き詩人への手紙』を朗読してみたい。
(村松潔訳、新潮クレスト・ブックス・2200円)
1951年生まれ。米国の作家。本作で2018年の全米図書賞を受賞。

◆もう1冊 

シークリット・ヌーネス著『神の息に吹かれる羽根』(水声社)。杉浦悦子訳。

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