イカナゴ、キレイな海では不漁? 兵庫で打ち切り プランクトン減が原因か

2020年6月10日 06時56分

水揚げされるイカナゴの稚魚=2019年3月、兵庫県明石市の林崎漁港で

 各地でイカナゴの不漁が続いている。全国一、二の水揚げを誇ってきた兵庫県の大阪湾や播磨灘ではあまりに採れず、今春の漁は四日〜七日で打ち切られた。兵庫県が二〇一九年度までの五カ年をかけた調査によると、不漁の原因は海がきれいになりすぎたというのだが…。 (稲垣太郎)
 「初日で終わりにしたいほど少なかった。イカナゴ漁はもう当てにできなくなっている」。兵庫漁協の漁師井上隆司さん(44)は二月二十九日に解禁したものの早々と終わった大阪湾での漁をこう振り返った。
 イカナゴは沖縄を除く各地で採れ、稚魚は東日本ではコウナゴ、西日本では新子(しんこ)と呼ばれる。兵庫県では新子を甘辛く炊いたつくだ煮の一種の郷土料理「くぎ煮」が親しまれている。
 地元の漁師が嘆くのも無理はない。兵庫県のイカナゴの漁獲量は二〇〇二年ごろまで年間一万五千トンから三万トン程度で大きく増減を繰り返してきたものの、〇三年以降は一万トン程度で推移し、一七年以降は二千トンを下回るほどの減少ぶり。今年は桁違いに少ない百四十七トン(速報値)だ。
 大阪湾や播磨灘を含む瀬戸内海はかつて、工業廃水に含まれた窒素やリンが植物プランクトンの栄養源となり、赤潮の発生に悩まされていた。一九七三年に瀬戸内海環境保全特別措置法が成立し、排水基準が強化されたほどだ。
 だが、窒素やリンが減ってきれいになった海では植物プランクトンが減り、植物プランクトンを餌にしていた動物プランクトンも減少。そして動物プランクトンを食べる魚も減るという負のサイクルが発生した。
 県立農林水産技術総合センター水産技術センターが行った調査結果について反田実技術参与は「海水の栄養度が下がってイカナゴが減った」と説明する。その対策に県は昨年、下水処理場などの排水基準を緩和し、海水に窒素やリンを増やすよう方針転換した。
 ただ、イカナゴの不漁はこの地域に限った出来事ではない。
 宮城県沿岸では四月十三日に漁が解禁されたが、記録が残る一九六〇年以降、東日本大震災で漁ができなかった二〇一一年を除き、初の水揚げなしになった。イカナゴは温かさに弱く、夏に砂の中で「夏眠(かみん)」する。県水産技術総合センターは地球温暖化の影響で海水温が高く、夏眠の間に体力が低下して冬の産卵に影響が出ているとみる。
 三重県と愛知県の伊勢・三河湾はさらに深刻だ。イカナゴ漁が五年連続で禁漁となったからだ。愛知県水産試験場漁業生産研究所の下村友季技師は「事前の調査でイカナゴの仔魚(しぎょ)が採れなかった。漁をしても採れないから禁漁になった」と経緯を説明し、「海水温の上昇が原因の一つに考えられるが、なかなか効果のある対策が打てないのが正直なところだ」と話した。
 瀬戸内海が貧栄養化で、宮城県沿岸と伊勢・三河湾は海水温の上昇がイカナゴ不漁の原因と考えられている。見方が異なるが、果たして本当にそうなのか。
 水産研究・教育機構瀬戸内海区水産研究所の本田聡資源生産部長は「兵庫県は貧栄養化が原因とする調査結果を出した。しかし、私たちはまだ原因の確定に至っていない。宮城県や愛知県などの海水温の上昇も原因として確定したわけではなく、それ故に明確な対策は決まってないとみている」と語る。
 つまり、排水基準の緩和が本当に対策となるのかどうか、本田氏は確信が持てていない。「そもそも海水温の上昇が原因なら、下げることはできず積極的な対策は取れない。いずれにしろ原因の確定を急ぎたい」と本田氏は話す。

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