酒場の京都学 加藤政洋(まさひろ)著

2020年3月15日 02時00分

◆酒好き集う飲み屋街の系譜

[評]太田和彦(作家)

 京都はお茶屋、お座敷だけでなく酒場も充実している。著者は立命館大学教授で、京大人文科学研究所の共同研究「近代京都と文化」への報告をもとに、この本をまとめた。地誌、世相史、文芸が軸となっている。読了した翌週、ちょうど京都に行く用事があり、本をたどって実見してきた。
 著者が注目する、京都の酒好きで知らぬ者のない、昼からやっている裏寺町の名物酒場「たつみ」は京都繁華街まん中、四条河原町交差点のすぐ裏で、よそ行きと日常、雅と俗、ハレとケが背腹にあるのが京都の特徴とあるとおりだ。ここはもと銭湯「電気風呂」で、そのため入り口が左右に二つあり、客には大学の先生も多く、立ち飲みで難しい話をしている。
 そこから北にのびる「柳小路」は最近若い人の小居酒屋が充実している。京都はまた昔から旧制三高など学生の痛飲を容認する所で、その名物店だった(名物には店の美人三人姉妹も含む)のが「正宗ホール」。柳小路の大きな町家居酒屋「静」はそれを継ぐ店で、私も大昔に入り、壁や階段を埋める落書きに唐(から)十郎のサインを見つけ、これは京大西部講堂で公演した後かなと思った。
 色街情緒の先斗町の変容は「お茶屋はもう古おす。新しいこと考えんとあきまへん」という現役芸妓(げいこ)のクラブやバーから始まり、今は観光客相手が多い。高瀬川に沿う木屋町が京都飲み屋街の中心になった経過が書かれ、あわせて京都に多い「会館」に注目する。
 会館とは安アパートのような二階建ての中央通路両側に極小の店が並ぶ飲食街だ。高瀬川西の「たかせ会館」はその典型で、京都一のジントニックを出すバーや、毎夜「今日も朝まで中島みゆき」のビラが出るスナックがある。今回は老舗蝋燭(ろうそく)店が開いた居酒屋の鯖(さば)ずしで一杯やった。すぐ近くには京都一の老舗高級割烹(かっぽう)があるのも京都らしい。
 観光客と地元の人の行く店が、はっきり分かれるのが京都の特徴だ。「あとがき」に私も酒場好きでと吐露しているのがほほ笑ましい。いずれどこかでお会いするかもしれない。
(ミネルヴァ書房・2750円)
1972年生まれ。立命館大教授。著書『大阪――都市の記憶を掘り起こす』など。

◆もう1冊

太田和彦著『ひとり飲む、京都』(新潮文庫)

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