何度でも泣ける「沁しみる夜汽車」の物語 NHK沁みる夜汽車制作チーム著

2020年3月22日 02時00分

◆人つなぐレール、ホームは家

[評]村井美樹(タレント)

 鉄道旅をしていると、ほっと心和む瞬間がある。たまたま隣り合ったおばあちゃんと会話がはずんだり、沿線で親子連れが笑顔で手を振ってくれたり、駅員さんに地元のおいしいお店を教えてもらったり…。
 地域に根ざした乗り物だからこその「人のふれあい」があり、そこで生活する人々の素顔を垣間見ることができる。私が鉄道旅が好きな理由の一つでもある。
 本書には、駅や列車を舞台に繰り広げられたさまざまな人間ドラマが紹介されている。NHKBS1の番組『沁みる夜汽車』で放送された実話の物語など全十話を書籍化したものだ。番組では放送しきれなかったエピソードも加わり、映像で見るのとはまた違う、文章ならではの趣があふれている。
 特に心に響いたのが、JR中央線の満員電車で知り合ったサラリーマンと小学生の四十九歳差の友情物語だ。毎日同じ時間の同じ車両に乗って交流を深め、二人はかけがえのない親友になっていく。他人に無関心な殺伐とした満員電車の中で、こんなにも純粋で美しい友情が芽生えるのだと驚き、二人の温かい関係に思わず涙がこぼれた。
 他にも、三陸鉄道久慈(くじ)駅の駅長さんが地元の高校の卒業生に向けて書いたメッセージボードの話や、重い心臓病で死期が迫る中、江ノ島電鉄の運転士になる夢をかなえた少年など、どの話もしみじみと心が洗われるような優しい物語ばかりだ。
 番組では、ただ「泣ける」だけではない、「感動できる」だけでもない、心にグッときて共感できるような「沁みる」物語を目指してきたという。
 なぜこんなにも「沁みる」のだろう。それは鉄道が、多くの人々にとって身近で、人生にそっと寄り添ってくれる普遍的な存在だからかもしれない。レールは人と人とをつなぎ、ホームや駅はみんなの家であり、心のよりどころでもあるのだ。
 本書を読み終えて、そこに書かれている路線や駅に無性に訪れてみたくなった。
(ビジネス社 ・ 1540円)
NHKBS1で昨年春、夏、冬編を放送。本書は春・夏編など全10話。

◆もう1冊 

大石直紀著『かぞくいろ-RAILWAYS わたしたちの出発』(小学館文庫)

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