<わたしの転機>飛騨と越前 絶妙の出合い 定年後に有志とソバ栽培 新品種づくりに成功

2020年6月10日 08時37分

「飛越1号」を使った手打ちそばを振る舞う石田五十六さん=岐阜県飛騨市で

 保険会社のサラリーマンだった岐阜県飛騨市の石田五十六(いそろく)さん(77)は定年後、趣味のそば打ちが高じ、市内でソバ栽培に取り組む。愛好家団体「奥飛騨朴念そばの会」を設立し、在来種の改良に挑戦。12年に、越前(福井県)の在来種と掛け合わせた「飛越1号」が新品種と認められた。「おいしいそばを飛騨から発信したい」と語る。(植木創太)
 五十歳を過ぎ、会社の親睦旅行で訪れた福井県池田町で、そば打ちを初体験しました。ソバは越前の在来種で、本当にうまかった。香りがあって、のどごしが良くて。帰宅し開口一番、妻に「退職後はそば打ちを始める」と宣言しました。
 三年後に偶然福井に転勤。運命と感じ、赴任中はそば打ちの道場に通いました。当時、会社の定年は五十六歳。その後も働けましたが、心身とも充実しているうちに第二の人生をと、定年ですっぱり辞めました。
 飛騨市に帰郷後、おいしいそばを追究。道場のOBらと研さんするうちに、栽培したいと思うようになりました。味には打ち方と同じぐらい、品種や実の乾燥、保存の技術といった農業の要素が大きく影響すると気付いたからです。
 地元のそば好き十人ほどが集まり、〇四年から休耕田などを利用して越前の在来種の栽培に挑戦。最初は失敗ばかりでしたが、試行錯誤を続け、数年で栽培にこぎ着けました。
 「地産のそば」を目指す中で、〇六年に、県中山間農業研究所の技官の協力を得て、飛騨の一部で古くから育てられていた在来種のソバと、越前の在来種との掛け合わせに挑み、翌年に成功。飛騨の在来種はタンパク質のうまさが、越前の在来種はでんぷん質のうまさがあります。交配したソバは、そのバランスが絶妙でした。
 「この味なら全国に通用する」と確信し、地域の魅力にと、品種登録を目指しました。当時、全国で登録されていたのは数十種で、申請者は農業系の大学や研究機関ばかり。他と異なる種であることを証明する必要があり、周囲から「無理」と言われました。
 五百メートル、六百メートル、七百メートルの三つの標高で育てた実計千二百粒を分類。草の丈や実の数、大きさなど、必要なデータを二年間記録し、一二年に新品種に認められました。
 現在、毎年五ヘクタールほどを栽培。市の施設の中にある「味処(あじどころ)古川」で振る舞っています。二期作や乾麺作りにも取り組み、四月には思いをつづった「そば読本」(中日新聞社)も出版。最高の味を目指し、気力は高まるばかりです。

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