二重らせん 欲望と喧噪(けんそう)のメディア 中川一徳(かずのり)著

2020年3月15日 02時00分

◆権力闘争の暗部、あぶり出す

[評]隈元信一(ジャーナリスト)

 分厚い本だが、一気に読み切った。緻密な取材で掘り起こした秘話の数々がテレビドラマのように展開していく。
 同じ著者の前作『メディアの支配者』(二〇〇五年)を思い出す方もおられよう。フジサンケイグループを支配した鹿内(しかない)家の盛衰を描き、高い評価を受けた。
 本書は、その続編。日本テレビ、TBSに続く民放キー局となるフジテレビ、テレビ朝日の支配権争奪戦を追う。そして、日本のメディアの暗部をより広く、深くあぶり出す。
 冒頭が印象深い。フジの顧問弁護士を長く務めた藤森功が死んだ直後、その事務所から資料類がワゴン車へ。前作では匿名だった藤森を「知りすぎた男」として実名を出し、機密資料を回収しようとするフジ側とのそもそもの人脈から暗闘史へと引きずり込む。
 現在の「支配者」以外の主な登場人物をあげておこう。鹿内家と並んで「メディアの支配者」となり、鹿内家と同様に「終幕が訪れる」赤尾家の人々。ニッポン放送の買収でフジを狙った堀江貴文、その後ろにいた村上世彰(よしあき)……。
 買収劇などを経て、フジもテレ朝も安定したかに見えるが、「権力監視機能は弱体化する方向へと進むだろう」。著者の見通しは悲観に傾く。
 総じて、フジに比べてテレ朝の記述に新味が少ないのが惜しい。「あとがき」で著者は、本文で触れなかった「椿(つばき)発言事件」に言及している。
 一九九三年、テレ朝の報道局長が「非自民政権が生まれるよう報道せよ、と指示した」と会合で発言したと産経新聞が報じ、政治問題になった。
 評者の取材では「指示ではなく(非自民政権誕生の風が吹いているとデスクらと話した)」という発言だったことなど、誤報を含む報道の背景はどうなっていたのか。「二重らせん」の双方が火花を散らし、今に至るメディア規制を招いた事件に本文で触れなかったのは、欠落感がある。
 しかし、真実に迫る努力を最大限したうえで、裏がとれなければ書かないのが、ジャーナリストというものだ。
 特に、ジャーナリストを目指す若い人に読んでほしい。
(講談社・2640円)
1960年生まれ。前作で、講談社ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞を受賞。

◆もう1冊

太田省一著『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)。「番外地」の心意気!

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