資本主義の新しい形 諸富徹(もろとみ・とおる)著

2020年3月22日 02時00分

◆知的資産を人的投資で

[評]奥山忠信(埼玉学園大教授)

 先進資本主義国の成長率は低い。一般的な傾向である。しかし、その中で一人負けしているのが日本である。成長率が1%前後で低迷し、実質賃金は下がり、企業の投資も伸び悩んでいる。これに対して企業に貯(たくわ)えられた利潤は、有効な使途がないまま急増している。歪(ゆが)んだ経済である。
 本書は、日本企業がものづくりに自己満足し、資本主義の新しい形である「非物質化」――サービス化あるいはデジタル化の傾向を甘く見ていたのが負けの理由だと言う。
 新しい流れは、IT関連産業の発展やサービス業の比率の増加にも見られるが、製造業のサービス産業化のインパクトが大きい。例えば、アップルは「ファブレス企業」(工場を持たない企業)である。iPhone(アイフォーン)の製造は外国に任せ、本社は、顧客の嗜好(しこう)の変化を迅速につかんだ製品開発やグローバルな製造・販売チェーンの構築を行う。知的資産の創造が本社の任務であり、従来の製造業のイメージとは大きく異なる。
 他方、資本主義には変わらざる面がある。一九六〇~七〇年代のケインズ政策の全盛期には、累進課税などによる所得再分配が手厚い社会保障政策をもたらす、と信じられていた。しかし、八〇年代に新自由主義の政策が支配的になると、繰り返し金融危機が生じ、独占化が進み、格差と不平等の資本主義が復活した。本当は変わっていなかったのである。格差社会の到来は、分厚い消費需要をもたらす中間層を縮小させ、経済を停滞させる。
 著者は、知的資産の創造こそが経済成長の鍵であり、質の高い職業訓練機関などへ投資し、「社会投資国家」に転換することを提言する。職業訓練は人的資本投資であり、助けるべきは労働者で、会社ではない、と考える。高い賃金が中間層を復活させ、経済成長につながると期待もしている。脱炭素化社会への対応も新しい成長の一翼を担うという。日本の取るべき道は、こうした潮流を前向きに受け入れることだろう。読みやすく、魅力的な労作である。
(岩波書店 ・ 2860円)
1968年生まれ。京都大教授。著書『低炭素経済への道』など。

◆もう1冊 

同じシリーズで井手英策著『経済の時代の終焉』(岩波書店)。

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