痴漢とはなにか 牧野雅子著

2020年2月23日 02時00分

◆被害を軽視するメディア

[評]小川たまか(ライター)

 一月上旬、民放のバラエティーやニュース番組が、相次いで「女性専用車両バッシング」を行ったことが話題になった。男性の目がないのでスマホに没頭している、持っているブランドものが同じだとにらみ合いが始まる…など、首をかしげたくなるような内容にネット上では反発の声が高まり、「#女性専用車両は必要です」というハッシュタグ付きのツイートも多く投稿された。
 女性専用車両への揶揄(やゆ)や批判は今に始まったことではない。約二十年前の導入以降、多くのメディアがこれを行ってきた。なぜなのか。戦後、「痴漢」がどのように活字媒体で取り上げられてきたかを網羅する本書を読むと、その裏側が手に取るようにわかる。
 一九六〇年代から九〇年代にかけて、痴漢は娯楽のように扱われていた。男性誌は痴漢のノウハウを説き、著名な作家やタレントも被害を軽視し、ときには過去の痴漢行為を武勇伝のように語った。痴漢されて騒ぐのは「劣等感の強い、気持ちに余裕のない女」だと言った作家など、目を疑うような具体例が頻出する。
 二〇〇〇年ごろを境に、これが一変する。理由は、痴漢冤罪(えんざい)事件が大きく報道されるようになったから、である。以降、誌面に登場するようになるのは、痴漢冤罪と女性専用車両バッシング。痴漢冤罪を取り上げながら、女性の裸体写真を載せる雑誌があったことも、本書では記録されている。著者はインタビューでこう語っている。
 「『痴漢冤罪』は、性被害をエロとして楽しむこともできて、女を憎むこともできる。二度おいしいテーマだったと思います」
 痴漢の被害自体はおざなりにし、問題をそらし続けたメディアの陰湿さ。年始の女性専用車両バッシングを見るに、これは今も続く傾向であることがわかる。報道に関わってきた人は猛省のために読むべき一冊だと思う。そして、メディアの中の根深い「女性蔑視」を知らずしらずに受け取らないためにも、多くの人に読んでほしい一冊だ。
(エトセトラブックス・2640円)
1967年生まれ。龍谷大犯罪学研究センター博士研究員。著書『刑事司法とジェンダー』など。

◆もう1冊 

 林奕含(リンイーハン)著『房思〓(ファンスーチー)の初恋の楽園』(白水社)。泉京鹿(きょうか)訳。性暴力被害で自分を責めてしまう仕組みが理解できる小説。
※〓は、王へんに其

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