昭和ジャズ論集成 野口久光(ひさみつ)、油井正一(ゆい・しょういち)、植草甚一(じんいち)、清水俊彦、相倉久人(あいくら・ひさと)、平岡正明著

2020年3月1日 02時00分

◆日本で最も熱かった時代

[評]伊達政保(まさやす)(音楽評論家)

 子供の頃からラジオでジャズを耳にし、小学生高学年でアート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの洗礼を受け、中学生の時にはモダンジャズ・ブーム。その頃からジャズ関係の雑誌・本など、たとえばベーレント著・油井正一訳『ジャズ』(誠文堂新光社)を読みあさってきた。野口氏、油井氏の文章なども当然読んできた。高校時代、ジョン・コルトレーンなどを聞く一方で植草氏や相倉氏の本を読み、フリー・ジャズや黒人運動の高揚を知った。黒人ジャズのコピーではない、日本人ジャズマンの演奏も話題となり始めていた頃だ。
 激動の昭和40年代、地方の高校生でも10・8羽田闘争の三派全学連と機動隊との激突はショックだった。学生運動ばかりではなく、ジャズや映画や演劇なども熱を帯びてきており、予備校の夏期講習で新宿に出てきた時、そうした熱気に触れることが出来(でき)た。
 清水氏の難解なジャズ・アヴァンギャルド論、平岡氏の激越な文章は、まさにその時代を表現するものであった。これらのジャズ論を受け、ジャズ・ファンの間では大いに議論が戦わされていった。
 本書は熱気を帯びたその時代のジャズ論のアンソロジーである。野口氏、清水氏のはその時代の前後の文章が収められてはいるが。編者の浜野サトル氏(その時代に『都市音楽ノート』而立(じりつ)書房の著書がある)は、まえがきで敬意を払いつつ、野口氏、油井氏の大半は「如何(いか)にして音楽を楽しく享受するか」という範囲を出るものではなく、植草氏はあくまでも「都会の趣味人の関心」の枠内にあったとし、相倉氏、平岡氏は現実社会との接点を探ろうとする新しいジャズ論を形成していくことになると記している。
 しかし油井氏は日本独自のジャズの形成を呼び掛け、相倉・平岡両氏はジャズの土着を唱え、その現実的成果として山下洋輔トリオが結成されていったことは間違いない。野口氏も日本独自のジャズとして絶賛を惜しまなかった。
 この時代の熱いジャズ論を知る時、現在にも熱いジャズがあることを知るだろう。
(平凡社 ・ 6380円)
    ◇
著者6人はいずれも故人。

◆もう1冊 

中村とうよう著『大衆音楽としてのジャズ』(ミュージック・マガジン)

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