<ふくしまの10年・「消えた障害者」を捜して>(9)再出発…戻れぬ人も

2020年6月12日 07時14分

浪江町から二本松市に運ばれたいすやテーブルに描かれたバラの花

 福島第一原発事故により浪江町での営業ができなくなった、障害者が働く喫茶店「コーヒータイム」は、二本松市で再出発を果たした。
 JR東北線二本松駅近くの市民交流センター一階の店には、美しいバラの花が描かれた木製のテーブルといすが置かれている。店が浪江町にあったとき、障害者や家族、職員が力を合わせて作った。東日本大震災の時には、皆がこのテーブルの下に身を寄せた。
 テーブルのバラを描いたのは、統合失調症で働く仲間の根本優さん(54)。
 姉によると、優さんは小さいころから絵が好きで人物のしわなども写実的に描いていた。バラを描くのも昔から好きだった。ファッション関係の専門学校に入ったが、集団生活になじめず、不登校になった。油絵も独学で描いていた。
 しかし、原発事故後の仮設住宅暮らしで体調を崩して入院した。店を営むNPO法人コーヒータイム理事長の橋本由利子さん(67)は震災から五年がたったころ、一年間、優さんの入院先に通った。
 「私、ここ(病院)に五年いるのよ。世の中変わっちゃった」と弱気もみせていたが「絵を描くことで生活できないかな」と夢も描いていた。退院間際になって体調が急変して意識不明となり、今もそのままだ。
 NPO法人は現在、二号店を二本松市内に出し、ボールペンやコースターも作っている。働く三十人のうち、浪江出身者は四人。震災後に加わった二本松の人たちが大半となった。橋本さんは「避難しなければ、二本松の新しい仲間には出会えなかった」と話す。失ったものはあまりに大きいが、得たものもある。
 それでも「二本松にずっといる自分は想像できない」。強い思いが芽生えている。浪江町に帰りたい。

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