<ふくしまの10年・「消えた障害者」を捜して>(10) 友と守る故郷の香り

2020年6月13日 08時08分

OBRIは大堀の名にちなむ=二本松市で

 障害者が働く喫茶店「コーヒータイム」は、福島第一原発事故が起きるまで、焼き物の産地・浪江町大堀地区にあった。今も許可なく立ち入りができない帰還困難区域だ。
 二本松市で再出発した今も大堀焼のコーヒーカップを使い、二号店の「OBRI(オブリ)」の名前も大堀にちなんでいる。オブリは浪江町出身者が多く暮らす復興公営住宅の近くにある。NPO法人コーヒータイム理事長の橋本由利子さん(67)は「町出身の高齢者が集う場所にと思っているけどなかなか外に出て来ない」と残念がる。
 浪江町は二〇一七年三月に一部で避難指示が解除されたが、居住者は千四百人ほどで、原発事故前の一割に満たない。橋本さんは、二本松市の店は維持したうえで、浪江町でもう一度店を開きたいと考えている。
 「商売にはならないので、午前中は農作業に行くとか、困っている高齢者のお手伝いにいくとか、新しい方法はないかと考えている。千鶴さんと共同経営で」
 「千鶴さん」とは、〇五年に働き始めた志賀千鶴さん(62)。三十代で統合失調症と診断され、十年以上、浪江町の自宅に引きこもっていた。コーヒータイムには「最初はおそるおそる行った」というが、気の合う仲間と出会うことができて大切な場所になった。
 原発事故後は二本松市に避難し、再出発したコーヒータイムで働き続けている。復興公営住宅ができたのを機に浪江町に転居したが、週二〜三回、車で一時間半ほどかけて通う。
 橋本さんの自宅は、今は浪江町にはない。高線量のため取り壊し、跡には桜の木を植えた。苦難をともにした志賀さんと開く店が、町が自分のふるさとである証しになる。 =おわり
(早川由紀美が担当しました)

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