<Newsスポット>川口、コロナ禍「夜の世界」の貧困 団体が支援

2020年6月14日 07時28分

利用者(手前)に食材を手渡す石川祐一さん(右)と菜摘さん(中)=いずれも川口市で

 コロナ禍が蔓延(まんえん)する元凶のようにたたかれ、八方ふさがりの様相を呈する「夜の世界」。収入を失い、生活苦に陥る風俗業界の女性たちが後を絶たない。逆境に立たされたシングルマザーらを救済する草の根の取り組みが、歓楽街を抱える川口市内で芽吹いたのは五月のこと。偏見や蔑視と闘いながら支援の輪を広げている。(大西隆)

◆破れた安全網

 接待飲食店のキャバクラのスタッフ石川祐一さん(37)、菜摘さん(29)夫妻らのボランティア団体「ハピママメーカープロジェクト」は、月一回、有志から募った食料を無償で配布するフードパントリーの活動に乗り出した。五月には十五世帯四十人、六月には二十二世帯六十四人に提供した。問い合わせは増え、県外からも。業界の貧困化がじわり進んでいるようだ。
 勤め先のキャバクラが休業し、先日、東京都内から食材を受け取りに来た女性(30)は求職中と打ち明けた。「息子も小学校に上がり、コロナへの感染も怖いから店は辞める。でも、昼間の仕事は見つからず、ペットの犬がいては生活保護の受給も難しいと聞き、困っている」と話した。
 菜摘さんは「水商売であれ、性風俗であれ、夜の世界で働くシングルマザーの課題について、世の中はもっと目を向けてほしい。彼女たちはどんな支援を得られるのか考える前に諦めてしまう」と言う。性を利用するような商売への偏見が、女性たちを社会的に孤立させる温床と見る。
 二人は長年のキャバクラ勤めの間に、深刻な事情を抱えて苦悶(くもん)する女性たちに出会った。配偶者暴力(DV)から逃れてきたり、多重債務で首が回らなかったり。アルコールや薬物への依存、知的障害や精神疾患、前科前歴のある人も。
 風俗業界は事実上、素性を悟られたくない女性たちのセーフティーネット(安全網)の役割も果たしている。コロナ禍でそれが破れて放り出され、おおっぴらには声を上げられず立ち往生しているのが実情だ。

◆問われる人権

 しかるに、ネットには心無い誹謗(ひぼう)中傷があふれる。「コロナの元凶に同情の余地はない」「普段から身の丈に合った生活を送っていれば困らない」「昼間頑張っている安月給のシングルマザーを支援して」−。
 祐一さんは「この緊急時に、仕事の道徳上の是非や自己責任を追及している場合ではない。まずは生きる権利を守るべきだ」と反論する。「自助」が弱り果てているのに、風俗業界に冷たい「公助」。パントリー活動には、双方の間に広がる溝を埋める「共助」の関係を築く狙いもある。
 この業界では、税逃れが目立ち、暴力団との癒着が疑われるとして国は救済に後ろ向きだ。職業差別だと批判され、徐々に容認へ転じたものの、性風俗に限り「国民の理解を得られにくい」として除外してきた。
 国の不公平な仕打ちの撤回を求め、署名運動をしてきた大阪市内のデリバリーヘルス(無店舗型風俗)の経営者(33)は「法令を守り、反社会的勢力と関わらず、正しく税務申告して経営してきた。それでも国が見捨てるなら違法な商売が横行すると思う」と憤る。

◆危機へ「腰据えて」

 他方で、大抵の女性たちは、個々に仕事を託されるフリーランスの立場にある。雇われの身ではないから、不景気になればあっさり打ち切られ、失業手当は出ない。転職するにも履歴書も埋まらない。コロナ禍はそんな不安定な境遇をさらに激しく揺さぶる。
 だからこそ、女性たちと「昼の世界」の縁結びの場としてもパントリー活動を生かせないかと、石川さんらは模索を始めている。弁護士や社会福祉士、税理士ら多彩な専門家の協力を仰ぎ、納税や困り事の相談に乗ったり、「昼の世界」での就労を手助けしたりする機会の充実を構想する。
 「夜の世界で働くシングルマザーは『自分一人が頑張ればいい』と考え、問題を丸抱えしてしまう女性が少なくない」と指摘するのは、性を巡る社会問題と向き合う一般社団法人「ホワイトハンズ」(新潟市)の代表理事坂爪(さかつめ)真吾さん(38)だ。「行政やNPOのひとり親支援にもつながりづらい存在なので、昼の世界と夜の世界の懸け橋となることを目指すフードパントリーのような試みは、非常に重要だ」と語る。
 コロナ危機があぶり出した「夜の世界」の貧困問題。菜摘さんは「ナイトワークの危機は長引くかもしれず、腰を据えて取り組みたい」と話す。ハピママメーカープロジェクト=メールsupport@expressyourself.jp、ライン@265hougu

食材の提供を受ける石川菜摘さん(左)と祐一さん(中)(ハピママメーカープロジェクト提供)

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