イチロー・インタビューズ 激闘の軌跡2000-2019 石田雄太著

2019年9月22日 02時00分

◆人生の普遍に及ぶ言葉

[評] 後藤正治(ノンフィクション作家)

 今春、イチローがバットを置いた。メジャーでは、新人王にしてMVP、シーズン最多安打、二度の首位打者、通算三千本安打…。「偉大な」という形容も過分ではあるまいが、寡黙な孤高のプレーヤーというイメージも付きまとう人だった。
 本書は、イチローの歩みを、節々のインタビューを軸に構成した“イチロー全書”である。著者は全米の球場に幾度も足を運び、プレーを観察し、吟味考察した上で問いを発し、豊かな言葉を引き出している。従来のイチローのイメージはかなり覆り、また卓越した選手となり得た秘密も解きほぐしている。
 「進化の先には必ず壁がある」。その壁を、飽くなき努力と精進で突き抜けたのがイチローだった。強肩で守備力も卓越していたが、ライト線に飛んできた打球を捕って素早く返球するには、周囲の風景を「背中で」知覚せねばならない。球場ごとの細部の風景をすべて掌握していたというが、知られざる研鑽(けんさん)の一つであろう。
 打撃論などさまざまな野球談議も興味深いが、問答がより佳境に入ったように思えるのは、プレーヤーとして盛りを過ぎ、球団を移り、“晩年”に入ってからである。イチローの吐く言葉が、いわば人生の普遍に及んでいるように感じられるのである。
 「(共感するのは)『何かになりたい』と思っている人たちではなくて、『何かをやりたい』と思っている人たちです」
 「虚(むな)しさなんて、しょっちゅう感じています。でもそれこそが、成熟へ向けての道ではないですか」
 「どんな数字や記録があっても、それが自分だけのものであったとしたら、誰かが喜んでくれなかったとしたら、何も残らないと思います」
 イチローにとって野球は「自分の全エネルギーを注げる」対象だった。若くして本当にやりたいと思えることに出合い、全身全霊でもって格闘した。そのことが他者に「努力の天才」と映り、結果として、「偉業」が残っただけなのかもしれない。
(文芸春秋・1944円)
1964年、愛知県生まれ。スポーツジャーナリスト。著書『イチローイズム』など。

◆もう1冊 

別冊宝島編集部編『証言イチロー-「孤高の天才」の素顔と生き様』(宝島社)

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