暗闇から光の下へ コロナ禍で対話イベント「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」を転換

2020年6月16日 06時57分

2016年に常設の外苑前会場であった「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」で暗闇に入る準備をする参加者=東京都渋谷区で

 
 暗闇での対話を通し、自身の日常と違う世界や価値観を知るイベント「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(DID)」が、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、参加者が接触しがちな暗闇を一時封印し、明かりの下での「ダイアログ・イン・ザ・ライト」に変わる。運営団体のダイアローグ・ジャパン・ソサエティ(東京)は、暗闇は今はリスクを冒してまで必要ではなく、光の下でも同じ効果を狙えると考え、新たな試みに挑戦する。(神谷円香)
 DIDはドイツ発祥で、日本では1999年に初めて開催された。見た目で感じてしまう偏見から解放され、視覚以外の感覚を研ぎ澄まし、参加者が対等な立場となり対話や相手を信じる大切さを学べる場だ。多くの企業が研修にも活用している。
 参加者は数人ずつのグループでいろいろなものに触れたり、飲食したり、音楽の演奏を聴いたりする。何も見えないので、互いに声を掛け合うことが求められるが、その過程で、参加者同士が肩や手に触れ合ったりする。
 ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ代表理事の志村季世恵さん(57)は「参加者同士の距離を保って開催する方法も考えたが、不安が残れば楽しみを感じられない」と3月にDIDの活動を休止。7月に予定していた常設ミュージアム「対話の森」(東京・浜松町)のオープンも、コロナの影響で入居する商業施設自体の開業が遅れている。
 一方で「コロナ禍で人と人との距離が広がったが、社会とは関わっていい。そんな今、求められているのは工夫しながらの人との出会いや対話」と志村さん。コロナ禍の不安の前では、暗闇でなくとも誰もが対等な状況にあると考え、イン・ザ・ライトの常設ミュージアムでの実行を決めた。
 DIDでは視覚障害者が真っ暗な部屋の中で参加者を導く「アテンド」を務める。移動を助けるだけでなく、参加者が日常では気づけないことを見つけられるよう促す役割も果たす。

オンラインで休校中の子どもたちと対話する檜山晃さん(ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ提供)

 生まれつき全盲で、これまで1万人以上を案内している常勤職員の檜山晃さん(39)=東京都武蔵村山市=は「日常が見えないものに囲まれている」と視覚障害者の世界を語る。そんな檜山さんは、コロナ禍でトイレットペーパーや消毒液などの買いだめが起きた状況について「(コロナウイルスという)正体が分からないものへの世間の反応が異常と思った」と話す。
 活動を休止した3月、オンラインで休校中の子どもたちと対話する試みを始めたところ、自分は当たり前だと思っていたことを子どもたちが新鮮に感じ、その逆も経験。「暗闇で参加者に伝えてきたことは、光の下でも伝えられる」と手応えを感じたという。
 檜山さんは「暗闇でしかできないと思われたくない。視覚以外の感覚をどう意識するか、同じ場にいなくても日常でもそれはできる」と、光の下でのアテンドに意欲を見せている。

◆音のない世界や加齢の意味を問うイベントも

 常設ミュージアム「対話の森」では、暗闇以外にも音のない世界の体験と、年齢を重ねることの意味を考えるイベントを行う。いずれも2017年から短期イベントで試み、常設会場での開催は初めてだ。

2018年7月の「ダイアログ・イン・サイレンス」の様子(ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ提供)

 聴覚障害者が音のない世界へ導く「イン・サイレンス」は、ヘッドセットで音を遮断し、文字も口パクも、手話も使わずコミュニケーションを取っていく。
 参加者の案内役を務める松森果林さん(45)=千葉県船橋市=は、原因不明の難聴で高校二年生から両耳とも聞こえなくなった。イン・サイレンスの活動を通じて「表情の作り方、体の動かし方を知った。使っていない部分がたくさんあった」と話す。

2019年7月に実施した「ダイアログ・ウィズ・タイム」の様子(ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ提供)

 70歳以上の高齢者が年を重ねる意味をさまざまな手法で問い掛ける「ウィズ・タイム」は、高齢者の感染を防ぐため、実施は来年以降になる。
 17年から案内役を務める原田泉さん(81)=埼玉県所沢市=は、参加者から「自分の老後を考える機会と思って参加したが、今をどう生きるかを考える機会になった」という感想をもらったことが印象に残っている。「将来の不安でなく、そのために今どうするかが大切」と伝えたいと思っている。

◆ダイアログ・イン・ザ・ダーク


 日本では1999年の初開催以来、23万人が体験した。2008年までは全国各地で期間限定のイベントとして開催し、一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティが09~17年、東京・外苑前に常設会場を設置した。現在、禅の思想を基に暗闇で心身を整える場が神宮外苑に、真っ暗な一軒家で対話する施設が大阪にある。神宮外苑、大阪ともに臨時休館中。企業研修は常設ミュージアムのオープン後、暗闇での体験も選べる形で再開予定。

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