もうすぐいなくなります 絶滅の生物学 池田清彦著

2019年8月18日 02時00分

◆安定、衰退、絶滅の繰り返し

[評]小林照幸(ノンフィクション作家)

 生命誕生から三十八億年の地球史で、恐竜をはじめ生物の99%以上は既に絶滅したという。絶滅は一般的に「日本産トキは二〇〇三年に絶滅」のように種(しゅ)で語られる。
 本書のタイトルは、二つの理由に基づこう。ひとつは地球史で地球規模の天変地異による生物の大量絶滅は六回起き、地質学的には七回目の可能性があること。もうひとつは絶滅危惧種をランク付けした各国の「レッドリスト」が示すように絶滅のスピードがかつてないほど早いからだ。
 大量絶滅でも生き延びる生物はおり、そこから進化や新たな種の誕生もあるわけだが、絶滅の概念は特定の種の絶滅で語り尽くせるほど単純でもない。ゾウはアフリカゾウなど現在は三種で絶滅危惧種でもあるが、ゾウ目ゾウ科などと呼ぶ系統にも寿命があるのでは、と著者は見立てた。
 生物は行き着くところまで行くと安定して進化も止まり、やがて生息数も減って衰退、絶滅に向かう。新たな生物は進化の多様性にも富むが、やはり安定、衰退、絶滅の流れが待ち受ける。こうした繰り返しが生物の絶滅史と進化史と著者は考えるのである。
 絶滅回避の手段には突然変異や近縁種との交雑による混血などがある。今日、在来種と外来種による混血種は遺伝子汚染と称され、外来種駆除も行われるが、著者は生存戦略面で評価する見解も持つ。
 なぜなら、現生人類の祖先のホモ・サピエンスは、三万九千年前に絶滅したはずのネアンデルタール人と交雑していたからである。現生人類でもアフリカ土着の人を除き、遺伝子の一部はネアンデルタール人に由来する。種は絶滅しても遺伝子レベルでは絶滅していない、という生命の深奥も著者は教えてくれた。
 ヒトの系統は「生きている化石」とよばれる肺魚にたどり着き、さらに現在の生物は三十八億年前に誕生した原核生物の子孫となる。あらゆる生物の中で絶滅種の遺伝子も息づくが、七回目の大量絶滅が、すべての生物が絶滅する規模となれば、遺伝子レベルも絶滅する。その可能性もタイトルは示唆したようだ。
(新潮社・1404円)
1947年生まれ。生物学者。著書『構造主義生物学とは何か』など。

◆もう1冊

小松貴著『絶滅危惧の地味な虫たち-失われる自然を求めて』(ちくま新書)

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