昔は「三島」だった駅 土屋武之さん

2020年6月16日 07時02分

現在の下土狩駅


 小説家の井上靖は北海道の生まれだが、生後すぐ、母の出身地である伊豆湯ケ島に移り住んだ。そのため、静岡県出身と紹介される。5歳の時、両親は豊橋へ移り、自分は残って祖母に育てられた。1960年発表の「しろばんば」は自伝的小説。夏休みになると井上本人の姿でもある主人公の洪作は、現在の伊豆箱根鉄道駿豆線に乗って三島へ出て、乗り換えて豊橋へと向かっていた。大正の初めの頃の話だ。
 小説に出てくる三島駅は、新幹線も停車する現在の駅ではない。1934年の丹那(たんな)トンネル開通により熱海経由ルートへ切り替えられるまで、今日の御殿場線が東海道線であり、下土狩(しもとがり)駅が三島を名乗っていた。洪作が乗り降りした駅もそこ。三嶋大社の門前町として栄えた三島の町からは離れていたのだ。駅前から市の中心部へとまっすぐ向かう道路があるが、それがかつてのこの駅の地位の高さを表している。駿豆線は2代目三島駅の開業にともない、急カーブを切って新駅へ乗り入れる線形に変わった。
 今の下土狩も、ワンマン運転の普通列車にはもったいない、広々としたホームや構内を持っている。長距離列車も停車していた、幹線上の主要駅だった名残だ。

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