特攻隊の<故郷> 伊藤純郎(じゅんろう)著

2019年8月4日 02時00分

◆茨城での訓練生活を描き出す

[評]福間良明(立命館大教授)

 特攻ゆかりの地と言えば、誰しも鹿児島県の知覧(ちらん)や鹿屋(かのや)を思い浮かべるだろう。沖縄戦下、本土最南端の陸海軍航空基地であったこともあり、これらの町は戦後の特攻映画で多く扱われてきた。とくに知覧は特攻平和会館に多くの来訪者を集めるなど、その知名度は高い。
 だが、多くの特攻隊員たちが訓練に明け暮れたのは、知覧や鹿屋ではなかった。海軍飛行予科練習生(予科練)や陸軍少年飛行兵、海軍飛行予備学生として軍に入隊した彼らが搭乗員としての技術を叩(たた)きこまれたのは、茨城県の霞ケ浦(かすみがうら)や土浦、鉾田(ほこた)、百里原(ひゃくりはら)などの基地であった。だとすれば、彼らにとって「故郷」と思えるのは、霞ケ浦や鹿島灘や筑波山を望む土地だったのではないのか。本書はこれら航空基地における搭乗員養成の実相や彼らの生活・情念に分け入り、特攻隊たちの「原風景」を描き出している。
 その特長のひとつは、制度史がわかりやすく整理されている点である。予科練や少年飛行兵、予備学生といった搭乗員養成制度について、その変遷が一書でコンパクトにまとめられたものは、これまであまりなかったように思う。応募資格や訓練の様相が本書において整理されたことは、これからこの分野を学ぼうとする人々にとって、大きな導きとなるはずである。
 そればかりではなく、本書は特攻隊(航空隊)を取り巻く齟齬(そご)もていねいに記述している。予科練の甲種(旧制中学三年修了程度)と乙種(高等小学校卒業)の間には、学歴や昇進プロセスをめぐる対立が色濃く見られた。桜花(特攻用の高速滑空機)の訓練が行われた百里原基地の建設の際には、住民は一週間以内の立ち退きを命じられただけではなく、保証金は強制的に貯蓄させられ、戦後は税金とインフレで消えていった。
 「特攻の記憶」はともすれば、「涙のカタルシス」を伴って語られがちだが、彼らを取り巻く環境は一体どういうものだったのか。特攻映画における「知覧」「鹿屋」のイメージだけでは見えない重厚な史実を本書は伝えている。
(吉川弘文館・1836円)
1957年生まれ。筑波大教授。著書『満州分村の神話』など。

◆もう1冊 

福間良明・山口誠編『「知覧」の誕生』(柏書房)

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