しょぼい喫茶店の本 池田達也著

2019年6月2日 02時00分

◆自分を直視し気づく幸せ

[評]木村晃(サンブックス浜田山店長)

 けっして押し付けがましい成功物語ではない、いち青年の成長の記録だ。ただ、みんなの背中をそっと押してくれるはずである。『しょぼい喫茶店』は、会員制交流サイト(SNS)をきっかけに注目され、雑誌、新聞、テレビなどさまざまなメディアで取り上げられている注目の作品だ。
 著者は、どこにでもいるごく普通の学生…のはずだった。バイトも続かず転々とし、なんとなく始まってしまった就職活動、周りに合わせる自分に疲弊し、自分を偽ることへの自己嫌悪と葛藤する日々。そんななかSNSを中心にさまざまな人たちと出会い、触発され、助言を受け「しょぼい喫茶店」を開業、現在に至るまでを等身大の言葉でつづっている。「僕は働きたくなかった。/ただただ働きたくなかった。/理由はよくわからない」から始まる本書に共感する人も多いだろう。
 自分を偽りながらできないことを無理にするのではなく、できることをやっていく。まずは自身と向き合い、できないことを素直に受け入れる。そのうえで、自分でもできることを探し一歩を踏み出す。当然、みんながみんな同じことをすれば成功するというわけでもない。が、「働くとは」「幸せとは」と迷ったとき選択肢を広げてくれる一冊であることだけは間違いない。
 「何にも縛られない自由こそが幸せなんだと思っていたし、それを確保できるだけのお金があればいいと思っていた。でも、今はそうじゃない。/僕は、自分自身の自由を放棄して得られるものでしか大切なものを守ることができない。だけど、そのことで僕以外の誰かが幸せになるのなら、それは僕にとっても幸せなことだ」-。最終章にある言葉からは著者が辿(たど)りついた幸せの価値観を強く感じた。
 読了後、無性に「しょぼい喫茶店」に行きたくなり行ってきた。ビルの二階でカウンター七席のみ、たしかに「しょぼい」というのがしっくりくる。しかしそこには、さまざまな人たちの思いが込められた小さな小さな幸せな空間があった。
(百万年書房・1512円)
1994年、長野県生まれ。上智大卒。就職活動に失敗し、喫茶店を開業。

◆もう1冊

鈴木雅矩(がく)著『京都の小商い~就職しない生き方ガイド~』(三栄書房)

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