<子どものあした>5・5 こどもの日 角野栄子さんから子どもたちへ

2020年5月4日 02時00分
 あすはこどもの日。児童文学作家の角野栄子さん(85)に、子どもたち、親子に向けて、お気に入りの本を紹介してもらいました。

◆楽しい驚きが醍醐味

<1>『くろいの』田中清代(きよ)・作(偕成社・一五四〇円)
 ふっと後ろに誰かがいる気配。おや、何かが追い越していった‥。話しかけてもこないけど、他の人には見えないけど、確かにいる、わたしのそばにいる! なにかが…そのドキドキは子供の時の大事な時間。
 タイトルは「くろいの」。この名前って、怖いけど何とも誘われる名前ですよね。
 この絵本の主人公は塀の上や、バス停にちょんと座っている、「くろいの」に思わず声をかけ、ついてあるきだします。「くろいの」は何も話しません。どこにいくのかなあ…さあ、どこでしょう。道づれは「くろいの」ですから、ありきたりのところではありません。ページをくるたびに、「あれ」「あれ」! 楽しい驚き! これこそ絵本の醍醐味(だいごみ)です。
 おとなになると、残念なことに「くろいの」は見えなくなってしまいます。でもこの絵本を読んで、わくわくした大人は、大丈夫、まだあなたの「くろいの」は健在です。
 エッチングで書かれた絵がすばらしい。「くろいの」ですから、当然、黒と白、全ページ、モノクロです。それによって物語が一層力のあるものになりました。

◆「小さなおばけ」親子で

<2>『スパゲッティがたべたいよう』角野栄子・作、佐々木洋子・絵(ポプラ社・九九〇円)
 私の本も一冊入れさせてください。全部で四十二巻ある『小さなおばけシリーズ』の第一巻です。主人公のアッチは、食いしんぼうの小さなおばけ。最初はレストランの屋根裏に住んでいましたが、今ではコックさんとして大活躍。おばけですから、ちょっと変わった料理ですが、びっくりするぐらい、おいしいこと請け合いです。
 このシリーズは、昨年、四十周年を迎えました。まだまだ書き続けるつもりです。
 一年生の時、この本を読んだ人は、今、四十六歳。「子供に読ませたくて…自分でもまた読みたくなって」。こんな風に懐かしく思ってくれる人が沢山(たくさん)います。感謝を込め、改めての紹介です。

◆万歳もキュートなやつ

<3>『ちいさなハンター ハエトリグモ』写真・文 坂本昇久(ポプラ社・一六五〇円)
 この本は写真絵本です。
 「虫 すきです」というと、意外って顔をされます。でも、意外と、私は虫が好きなのです。子供の頃、数え切れないほどのトンボを捕りました。数え切れないほどのバッタをつかまえ、足を強く握りしめて、ぴょこぴょこ拝む様子を笑ってみてました。クモもだいすきです。
 クモは昆虫ではありません。クモはクモ。孤高のクモなのです。
 「ちいさなハンターハエトリグモ」は目が八個、足も八個。写真だから近寄って細部がはっきりと見えます。糸をくると丸めたみたいなちいさなクモなのに、クモの巣なんて張らないで、おおきな獲物を獲(と)るのです。驚いた時、びっくりしたときの万歳ポーズのかわいいこと。このハエトリグモはときどき私の机の周りでもぴょんぴょんと跳ねてます。原稿用紙が好きみたい。ほんとうにキュートなやつです。

◆語られる圧倒的な自然

<4>『旅をする木』星野道夫(文春文庫・六六〇円)
 一冊の本を繰り返し読む方ではありません。でも、星野さんの本はどれも別格。付箋もしてあれば、表紙もよれよれしてきました。時々行く、整体の若い先生の本棚にも置いてありました。「お好きですか?」と聞くと、「ええ、秋になると読みたくなるのです」という。同感!
 アラスカは四季それぞれ美しいはず、でも星野さんのアラスカはまず秋の赤。燃えるような赤に変わった原野が次第に冬へと移っていく。極寒のなかキリリと立つトウヒのすがた。アラスカを語る星野さんの言葉から圧倒的な自然の力が立ち上がってくるのです。しかも誇らずに語ってくれる。私の言葉では太刀打ちができません。それで彼の本をまた読むことになるのです。
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 次回の5月11日付から「東京エンタメ堂書店」は「東京ブックカフェ」として新装開店します。

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