<ブルボン小林 月刊マンガホニャララ> (12)地味に微細に教養摂取

2020年4月20日 02時00分
 テレビの『プレバト!』をみていると感心する。タレントの作った凡庸な俳句を夏井いつき先生が添削すると、ガラリと見事な作品になる。
 同じく『関ジャム』をみても感心することしきりだ。聴きなれたヒット曲の秘密を、微細なところまで解説してくれる。
 これらを楽しみながら、隔世の感も覚える。俳句の語順を入れ替えたり楽器のコード進行の微差を教えるバラエティ番組なんて、十五年、二十年前に成立したか。僕が若い頃にそんな番組はなかった。あってもチャンネル替えちゃったろう。退屈で。
 知見の得られるバラエティ番組は過去にも無論あったが、そこで語られるのは「音楽」や「日本語」というおおざっぱな項目立てだった。今はジャニーズの人気者や若いお笑い芸人が、専門的なコード進行や俳句の語順なんていう地味なことに興味深く耳を傾けており、視聴者は楽しみながら高度な教養を摂取できる。
 漫画の世界も今はより微細に、地味なところまでを描く。
 このほど全十五巻で完結した『銀の匙(さじ)』は、高校受験を失敗し、北海道の農業高校に通うことになった男子、八軒の三年間を描く。

荒川弘『銀の匙』 *全15巻。最終巻は2月発行。小学館。

 農業高校が舞台というそれ自体が画期的だが、そこを抜きにしてさえ学園漫画としての更新がここにはある。
 漫画における時間の流れ方として「三年を描くのに十五巻」は決して多すぎるわけではないが、かなり濃密だ。また、多くの学園漫画は恋愛やバトルなど注力すべき逸話にこそ巻数を割くが、授業などはすっ飛ばすのに対し、本作はかなり均等に学校での出来事を描く。屋外での実習が多い農学校だからか章題は春夏秋冬で分けられ、人だけでない、時間を大事に描こうという作者の意識がみえる。
 受験に失敗したことから卑屈だった八軒だが、(全員)アクの強い寮の仲間や同級生、先輩たちに揉(も)まれ、面白がられ、焚(た)きつけられながら様々なことに挑戦していく。始まりこそ卑屈だったが、実は成績優秀な主人公が諸事をぐんぐんと吸収していく様が心地いい。
 基礎スペックが高いというのは、最近の漫画主人公のトレンドでもある。鹿の解体、石窯でのピザ作りなどの大人でも尻込みしそうなことにも少年漫画の主人公らしい眼差(まなざ)しで、ためらいなく取り組む。ピザの販売は許諾の申請や経理までをやってのける。二十年前の漫画には描かれなかったことだ。
 教養を得ることに照れない姿は、『プレバト!』などで「地味な教養」にも新鮮に相槌(あいづち)をうつ今様の若者の姿とも符合してみえる。
 卒業前には進学でなく起業を模索し、実現のために奔走する様子を「ごりっぱ」でなく、漫画らしく軽やかにドタバタと描き切ってみせた。
 もう一作、このほど完結した『食の軍師』はクレバーな若い世代と異なる中年世代が主人公。主に都内各所でランチの「粋」な食べ方を模索し続け、一人で悦にいる(だけの)漫画だ。三食弁当の陣地を侵犯しない食べ進め方を思案し、ハムカツに中濃ソースを垂らしただけで西洋への憧憬(どうけい)を抱く。微細だが、八軒君をみたあとだと清々(すがすが)しいほどの成長のしなさ!

泉昌之『食の軍師』 *全8巻。最終巻は4月発行。日本文芸社。

三食弁当の「粋な」食べ方を思案する主人公=泉昌之『食の軍師』8巻から

 さしずめこれは『タモリ倶楽部(くらぶ)』の趣(おもむ)き。完結というが、しれっと続けてほしい。(ぶるぼん・こばやし=コラムニスト)
 *次回は5月18日掲載。

関連キーワード

PR情報