<ブルボン小林 月刊マンガホニャララ> (10)「賞っぽさ」と無縁の快作

2020年2月17日 02時00分

妄想する生徒会長=赤坂アカ『かぐや様は告らせたい』17巻から

 昨年から今年にかけ、イラストレーションや短歌の新人賞、小説の賞、俳句番組で選句、それから小学館漫画賞の選考を立て続けにやってきた。
 漫画の賞だけ独特な点がある。イラストも小説も詩歌俳句も審査するのは完成品だが、漫画だけは大抵「まだ続く」ものが賞の候補になる。その特異性には既に気付いていたが、短期間に異なるジャンルの選考を経て、実感がより深まった。
 演劇や音楽のライブでは、盛り上がりの頂点は途中の瞬間にある。だが、その盛り上がった最中に(拍手が大きいことはあれ)賞を与えることはない。漫画は演劇やロックの「ライブ」に近い表現で、拍手の代わりに立ち止まって審査する。
 今期の小学館漫画賞受賞作のうちいくつかは「途中」こそが醍醐味(だいごみ)という漫画の個性が特に浮き彫りになるものだった。

赤坂アカ『かぐや様は告らせたい』 *『週刊ヤングジャンプ』(集英社)で連載中。既刊17巻。

 受賞作の一つ『かぐや様は告らせたい』はラブコメだ。しかもギャグ漫画。まず、その受賞自体が稀有(けう)だ。本賞は黎明(れいめい)期こそギャグ作品も受賞しているが、青年向け雑誌が広まってからの「一般向け」部門で受賞はほぼない。
 ラブコメも賞には不利だった。もっとなんていうか「賞っぽい」漫画、テーマや深遠さ、凄絶(せいぜつ)さ、大風呂敷を感じさせる作品が強いのだ。
 本作は「ギャグ要素がある」なんて言い方では足りないほどのギャグ漫画で、かつラブコメ。これまでなら大穴馬券!(以下ネタバレあり、未読の方注意)周囲からは超エリートと思われている生徒会会長男子と副会長女子。内面は二人とも、過剰な自意識に支配されていた。お互いに好意を抱いているが、相手に初心(うぶ)と思われたくない。クールにふるまいながら内心で煩悶(はんもん)するギャップの面白さを、従来のギャグなら生徒会長一人でやるだろうところ、男女双方の二倍盛りにしたのがまず、画期的だった。
 先々のことを綿密に考えているとは思えない筆致なのに、少し出てきただけの端役や設定をどんどん使いこなしていき、ギャグだけと思って油断していたらいつの間にか、二人の思いはマジなことになっていく。普段はだらしないのに、不意に見事な試合をみせるキン肉マンのようなかっこよさを漫画自体が発揮して、感動と驚きを不意打ちでぶっこんでくる。
 旧来の男性向けラブコメには、ハーレムのように多くの女子に取り囲まれるのに、意中の子とはラストまで進展しないという不文律(?)があるが、本作では見事な恋の成就をみせつつ「まだ続く」という、未知の漫画表現の域に達している。

沢田ユキオ『スーパーマリオくん』 *『月刊コロコロコミック』(小学館)で連載中。既刊55巻。

 もう一作『スーパーマリオくん』(審査委員特別賞)にもぐっとくる。児童向け雑誌で、スーパーファミコンの時代から変わらないギャグを三十年「続けて」きた(『サザエさん』連載が二十八年だよ)。
 コミカライズは普通の創作に比べて評価されないきらいがあるが、ゲームのコミックは子供たちにキャラクターを活(い)き活きみせてあげる「役目」があり制約も大きい中での執筆だ。結果、遊んだ者さえ忘れてしまう「マリオ史」にもなっている。最新巻でも元気な線を維持しており、作者の矜持(きょうじ)を感じる。
 二作とも、深遠さや大風呂敷といった「賞っぽさ」と無縁な、正しく「漫画らしい」佇(たたず)まいの快作の受賞だ。
 (ぶるぼん・こばやし=コラムニスト)
 *次回は3月9日掲載。

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