<ブルボン小林 月刊マンガホニャララ> (8)漫画は「ついに」を描く

2019年12月16日 02時00分

小田ゆうあ『かろりのつやごと』 *『月刊オフィスユー』(集英社クリエイティブ)で連載中。既刊1巻。

 漫画には「ついに巻(かん)」というものがある。あるというか、僕がそう呼んでるだけなんだが、ナポリタンの発音で「ついに巻」。それは、単行本のオビに「ついに」と書かれる漫画(の巻)のことだ。
 (一巻完結の作品もあるが)多くの漫画は続きの「巻」を売る前提で物語を紡ぐ。新たな謎や、さらなる困難や、混浴風呂に二人っきり、みたいな「引き」が、巻の終わりごろに訪れるように紡がれる。次の「巻」を買ってもらえるようにだ。
 一方で、個々の巻ごとのピンチや謎とは別に、物語当初に提示される大きな問題もある。
 それが解決するのが「ついに巻」だ! ついにラオウと決着、ついに風早君に告白、ついにファントムの正体が明らかに、etc……!
 漫画というものを一つの運動体としたとき、必ず訪れる、かつ必ず「巻数を割」いた末の達成に対して、売る側も万感こもる。「ついに」という言葉をオビに書かずにはいられない。ときに漫画とは「ついに」を描くためにこそある、と言える。
 ……ここまで書くと今回紹介する二作が「ついに巻」のようだが、ぜんぜん違います。
 『かろりのつやごと』は、なんせまだ一巻だ。だが僕にはみえる。十くらい先の巻のオビに大きく躍る「ついに」の文字が。
 主人公のかろりは優しく控えめで英語にも堪能な優れた女性だが、容姿には自信がなく、恋に臆病でウジウジしている。そこに若くて明るい、関西弁の美少年(ジャニーズWESTの重岡大毅君がモデルに違いない)が登場、ひょんなことから二人は親しくなる。
 古典的なラブコメだ。旧来のラブコメの女主人公の多くが、「容姿に自信がない」設定の割にはかわいらしく描画されるのに比べ、かろりはでっぷりとした巨漢として描かれる。見目だけでない、彼と出会った食堂の椅子が彼女の体重でぶっ壊れてしまったほど。そこから「恋愛」漫画に発展させるにはかなりのハードルを最初に設けてみせた。
 それだけではない。一巻冒頭、かろりはアダルトビデオをみてその行為を夢想する。つまり、告白やキスが叶(かな)うのがゴールではない。セックスまで描く気だ! 道のり遠いぞぅ、と案じるのは、かろりの想(おも)い人の男性がかなり幼く描かれてしまっているからで、一巻ではどうしたってドキドキがみえてこない。だからこそ、ド級の大活字の「ついに」がみられるはず。頑張って!

水口尚樹『早乙女選手、ひたかくす』 *全10巻。最終巻は11月発行。小学館。

 もう一作。『早乙女選手、ひたかくす』最終巻のオビには「堂々完結」の文字が躍ったが、僕は「ついに」の三文字を幻視せずにはおれんかったよ。
 女子ボクシングで圧倒的強さを誇るエリート筋肉女子と、小柄な男子トレーナーの、恋愛スポ根漫画だ。強さと恋する姿の「ギャップ」だけの漫画かと思っていたが、二人は実にまっとうにそれぞれのコンプレックスと向き合い、助け合いながら乗り越える。瞬間のギャップ萌えではない、継続的に見続けるうち、ぶっきらぼうな主人公のわずかな表情の変化が愛(いと)しくなる。わき役が全員くせ者かつ超魅力的で、一人登場する度、面白さにブーストがかかった。題名の「ひたかくす」ことを「ついに」やめた二人の姿に大感動。作中の東京五輪でもって、僕の五輪は見納めでいい。 (ぶるぼん・こばやし=コラムニスト)

恋する2人が東京五輪出場を誓う。返事は「ウッス」水口尚樹『早乙女選手、ひたかくす』

 *第3月曜掲載。

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