令和元年の締めくくりに

2019年12月2日 02時00分
 いろいろあった二〇一九年もあと一カ月で終わり。今年発売された本は今年のうちに読んでおきたいものだ。令和元年下半期に刊行された小説の中から、生きるヒントをもらえる三冊を紹介したい。 (運動部長・谷野哲郎)

◆デジタルタトゥーを刻まれて

 事実が誤解されて伝わる。どんなに違うと訴えても信じてもらえない。もしも、あなたがそのような目に遭ったとしたら、どうするだろうか。<1>凪良(なぎら)ゆう著『流浪の月』(東京創元社、1650円)は、そんな理不尽な隣人や社会に苦しめられる1人の女性を描いた物語だ。
 9歳の更紗(さらさ)はある日、公園で出会った見知らぬ青年・文(ふみ)の家について行ってしまう。それが、自分の人生を大きく変えるとは知らずに-。誘拐事件としてニュースで大きく報じられてから、15年後。2人が再会するところから運命が動きだす。
 更紗は誘拐されたかわいそうな子、文は誘拐した怖い性犯罪者。ネットに挙げられた書き込みは実は真実とは違うものだ。しかし、周囲はそう思わない。過去の事件や中傷がネットで消えずに残り続けることをデジタルタトゥーと呼ぶが、本書はこの問題に静かに切り込んでいく。
 社会的背景もさることながら、更紗と文の描かれ方が興味深い。互いに恋愛感情も性愛感情もないが、一緒にいたいと強く願っている。多くの書店員が推した本作は「共生小説」という新しいジャンルといって良いだろう。賛否は皆さんの目で。読後、表紙に映るアイスクリームの写真を見たとき、涙が出た。

◆人生最後に食べたいおやつは

 <2>小川糸著『ライオンのおやつ』(ポプラ社、1650円)は「終活」の話。死が間近に迫ったとき、どのように人生の幕を引くのかは重厚なテーマだが、作者はさらりと軽い文体で読者に生と死の意味を問い掛ける。
 余命宣告を受けた33歳の海野雫(うみのしずく)は終末医療のため、瀬戸内海にあるホスピス「ライオンの家」を訪れる。さまざまな緩和ケアを受ける中で雫が気になるのは、おやつのルール。ここでは日曜日の午後3時に入居者のリクエストに応じたおやつが出るのだ。
 豆花(トウファ)、カヌレ、アップルパイ、牡丹餅(ぼたもち)、レーズンサンド…。絶品のおやつには、それぞれの人生が詰まっており、雫はそれを堪能しつつ、自分は何にするかを考え続ける。「人生最後に食べたいおやつはなんですか」。最終章がほのぼのと温かい。読んでよかったと思える一冊。

◆失敗した過去 次の一歩

 <3>乾ルカ著『明日(あした)の僕に風が吹く』(KADOKAWA、1760円)は、失敗した経験が怖くて、次の一歩が踏み出せない人にお薦めだ。
 目の前で倒れた友人を助けられなかったことからひきこもりとなった川嶋有人(ゆうと)は、叔父が医師を務める北海道の離島・照羽尻島(てうじりとう)に赴く。有人は全校生徒がたった5人という照羽尻高校でゆっくりと友情を育みながら、自分の進むべき道を見つけていく。
 ひきこもりの原因となった同級生と対面し、圧倒されるシーンは胸が震えたが、他にも勇気をもらえる場面がある。漁師の息子の誠はいつまでも悩み続ける有人に対して、「天気と過去は変えられねー」と言い放つ。達観ともいえる考え方にハッとさせられた。いつの間にか有人ではなく、自分が励まされている感じになった。
     ◇
 今年もさまざまな本が出版されたが、少なくとも私はこれらを読み、生きるヒントをもらい、これからも頑張ろうと励まされた。いろいろあった令和元年を締めくくるに足る三冊だと思う。来年も皆さんの人生が読書で豊かになりますように。

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