政権、異例の肩入れが裏目に 河井事件の背後に「官邸VS検察」

2020年6月19日 06時45分
 参院議員の河井案里、夫で衆院議員の克行両容疑者が公選法違反の疑いで逮捕された事件は、安倍晋三首相にとって自民党に所属していた議員二人が同時に逮捕されただけの衝撃では済まない。首相官邸は昨年夏の参院選広島選挙区の二人目の党公認候補に案里議員を押し込み、全面支援したからだ。無風選挙は一転して激戦となった。参院選後、首相が克行議員を法相に抜擢(ばってき)したことも裏目に出た。政権中枢に厚遇された二人への捜査は、官邸対検察の暗闘の様相を呈した。 (後藤孝好、妹尾聡太)

■演出

 首相は十八日の記者会見で河井夫妻の逮捕に関し、自民党総裁として「わが党所属だった現職国会議員が逮捕されたことは大変遺憾だ。国民の厳しいまなざしを受け止め、全ての国会議員は改めて襟を正さなければいけない」と述べた。
 まず襟を正すべきは首相だ。事件の背景となった厳しい選挙戦の演出に自ら関わっていたからだ。
 広島選挙区は改選定数二。自民党と野党が議席を分け合うのが通例だった。自民党県連は長年、溝手顕正元党参院議員会長を支え、昨年も二人目の擁立に反対した。官邸の意を受けた党本部はそれを押し切って案里議員を担ぎ出した。強引な二人目擁立は、首相批判を繰り返していた溝手氏への意趣返しだとの見方が党内では支配的だ。

■皮肉

 選挙戦では首相が秘書を広島に派遣し、首相自身や菅義偉(すがよしひで)官房長官も応援演説に駆け付けた。案里議員は溝手氏を振り切って初当選。党本部は溝手氏の十倍、一億五千万円を河井夫妻陣営に投じていたことが後に判明した。首相ら党首脳にしか判断できない異例の支出で、買収工作に流用された疑いも否定できない。
 陣営を取り仕切った夫の克行前法相はもともと首相や菅氏と親密で、首相補佐官や党総裁外交特別補佐を歴任していた。参院選後の内閣改造では法相として初入閣。首相は当時「法務行政のプロ」と持ち上げていたが、法相経験者が指揮監督していた検察に逮捕される前代未聞の事態となり、「任命した者として責任を痛感している」と陳謝せざるを得なくなった。

■攻防

 捜査が官邸と検察の暗闘という色彩を帯びた原因は容疑者二人の政権中枢との関係だけではない。広島地検が一月、河井夫妻の地元事務所を家宅捜索し、捜査を本格化させた直後、政府が閣議決定した黒川弘務・前東京高検検事長の定年延長も影を落とした。
 官邸に近いとされた黒川氏の定年延長は、前例のない脱法的な手法だった。政権がそこまでするのは、黒川氏を次期検事総長に起用し、検察の捜査をけん制する狙いがあるからだと疑われた。全国の検察トップによる二月の会合では、地方の検事正から「検察への信頼が疑われる」と懸念する声が公然と上がった。
 首相や菅氏が国会で定年延長の正当性を繰り返し主張する一方で、検察は河井夫妻の外堀を埋めていった。永田町・霞が関では、その経過は官邸と検察の攻防と見られていた。結果は、黒川氏の辞職、続いて河井夫妻の逮捕に至った。「安倍一強」だからこそ可能だった異例の選挙戦術や人事は、回り回って政権を揺るがしつつある。

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