酒に頼らず生きる 『しくじらない飲み方』 精神保健福祉士・社会福祉士 斉藤章佳(あきよし)さん(40)

2020年5月16日 02時00分
 「タバコや食べ物などの依存症は、口と密接な関係があります。特にアルコールは孤独感を癒やすのに手っ取り早い」。著者の斉藤章佳さんの言葉で思い出した。若いころ、タバコに手を出した。見知らぬ土地での初の一人暮らし。ある日、自分の独り言に気付いた。煙を吐いては「ああ寂しい」とつぶやいていた…。
 本書は「お酒とうまく付き合っていくための本」。最近気になるのは、アルコール依存症に逆戻りする「コロナ・スリップ」だ。「患者さんと連絡がとれずに家に行くと、大量の空き缶が転がっている。『今日一日飲まない』ことを目的に仲間と励まし合う断酒会が彼らの命綱なのに、コロナで開催できない。孤独感で飲酒してしまうんです」
 そして外出自粛の今、「一般の人も家での飲酒量が増え、プレ依存症の危険が高まっている」と警告する。在宅ストレスや先の見えない不安から、ついお酒に手が伸びる。しかも帰宅時間を気にする必要もない。特に危険なのは、安く酔えて口当たりの良い「ストロング系チューハイ」。ロング缶一本で、一日のアルコール適量を軽く超える。本書を読めば「路上に転がる酒臭いアル中」の印象が変わる。普通の人がふとしたきっかけではまるのだ。
 普段の仕事は「依存症」治療だ。アルコール依存症を手始めに、現在は性犯罪加害者の臨床に携わる。近著『男が痴漢になる理由』では、「痴漢は依存症のひとつ。主な動機は性欲よりもストレス解消」と、豊富な実例で説き明かした。
 タイトルは、自身の「しくじり」経験から。プロサッカー選手を目指したが、大学時代にけがで挫折。現実逃避のため旅行した沖縄で、昏睡(こんすい)強盗に泡盛を飲まされて身ぐるみはがされた。公園のベンチに座って三日後、野宿者の男性に話し掛けられ、すべてを打ち明けた。「恵んでもらった賞味期限切れのサンドイッチがとてつもなくおいしかった。自分の弱さをさらして誰かに頼ることが、生きるために必要だと気付いた」
 人はストレスに対処するため、誰もが何かに依存している。問題はその対象が過度な飲酒、性犯罪や万引など、自他を害する場合だ。「安全な『依存先』を複数持つことが必要です」。次作は対象が個人から社会へ。日本社会の「男尊女卑依存症」に切り込む予定だ。集英社・一四三〇円。 (出田阿生)

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