<寄席演芸の人びと 渡辺寧久>客席も目いっぱいに 寄席文字職人・橘右橘さん

2020年6月19日 08時38分

「東京新聞」をしたためた橘右橘さん。文字は「業績が上がるよう」右肩上がり

 寄席や落語会の看板、出演者名などを、独特の書体で形作る寄席文字。八代目桂文楽の勧めで、一九六五年に橘右近さん(九五年没)が家元として一門を立ち上げた。橘右橘(うきつ)さん(67)は、青山学院大学の落語研究会時代の七一年、右近さんに師事した古株。「どういうふうに書くかというより、どう体を動かしているか」を見て、職人芸としての筆運びを会得してきた。
 一門の名取は十八人。東京都内の定席や国立演芸場、名古屋・大須演芸場、大阪・天満天神繁昌亭など、全国各地の定席を、文字で彩る。「若手の勉強会で『めくり』や会のタイトルを書かせてもらうのが、われわれの修業の場」を経て、来年でちょうど半世紀。寄席では、東京・上野の鈴本演芸場の木札やめくりを右橘さんは担当している。
 「技術として伝え、広めていく」という一門の目的の裾野になっているのは、各地のカルチャースクールなどで開かれる寄席文字教室。漢数字の一から十、それに百と千を足した十二文字に、基本が含まれているという。書道の「永字八法」のようなものだ。
 「五人から三十人と教室の規模はまちまち。二十代から八十代までいます」といい、その中から「それなりに腕がいいなと思ったら、一門の勉強会『橘流寄席文字勉強会』に推薦します」。そこから「橘」の名乗りを許されるまでには、さらに七〜八年の修業を要するという。
 白い紙を客席とみなし、そこが満員になる願いを込め隙間がなくなるよう「マス目いっぱいで縁起を担ぐ文字です」という寄席文字。日本画で色をぼかすために使う竹軸の隈取筆(くまどりふで)に墨汁をたっぷりと含ませ、左ひじで体を支え前屈の姿勢で一挙に書きあげる。
 「気に入った筆は、詰めて使っちゃう。そこが難しい。なるべく使い回しをする。命を短くしないように」と注意を払う。「筆も、言うことを聞いてくれないこともある。道具だから、普段から養生しないと」 (演芸評論家)

最近使っている道具。200本近い筆が倉庫に眠っているという

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