年重ねても不謹慎な2人 『ピエタとトランジ<完全版>』 作家・藤野可織さん(40)

2020年5月23日 02時00分
 「女子高生」と聞いて、どんなイメージを喚起されるだろう。青春、恋愛、多感、純粋、陰険…。幅が広いのは、大人と子どもの境目だからか。それゆえに古今さまざまな物語の主人公として使われてきた。
 <完全版>と銘打つ本書の原型となった短編「ピエタとトランジ」(二〇一三年発表)も、その系譜の作品。推理の天才トランジ、奔放な助手ピエタという二人の女子高生が次々と事件を解決していく。「人がいっぱい死ぬのに、楽しくてわくわくする話にしたかった」と著者が語る通り、突き抜けた爽快さが漂う。
 トランジは「殺人事件を誘発する体質」を持つ。「探偵の近くで事件が起きすぎる」という、推理小説の矛盾を逆手に取った設定だ。二人が通う高校では事件が頻発し、卒業するころには生徒数が半分以下に減っている。「そういう不謹慎さ、はちゃめちゃさが一番ぴったりなのは、女子高生二人のバディ(相棒)ものだと思ったんです」
 狙いは当たった。「珍しく自分でも気に入っている小説」となり、「続きを書きたい」という気持ちも芽生えた。しかし一方で「すべきでないことをしたのでは」という反省も残った。それが主人公二人を女子高生に設定したことだった。
 「例えばテレビを見ていると、女性の若さを過剰に持ち上げたり、若くない女性が後ろめたいような態度を取らされたりするシーンが出てくる。私はそういう現状がいやだし、なくしたいと思っている」。なのに自分も、世の中の女子高生のイメージに乗っかって小説を書いてしまった-。
 だから本書では、二人は年を取る。「そうでなければ長編にする意味はなかった」。中年になり、老人になっても、周囲で人は死に続ける。「結婚して子を産むのが女の幸せ」という世間の抑圧には、ノーを唱え続ける。「むちゃをして暴走するのは女子高生だけの特権ではない。年を取っても不謹慎なままでいいということも書きたかった」
 物語は後半、思わぬ展開を見せる。実は、本書は「パンデミック(世界的大流行)小説」でもあるのだ。人類は滅亡の危機にさらされ、二人は荒廃した世界を最後まで駆け回る。もちろん新型コロナウイルス以降の現実との符合は偶然だ。でも、おかげでますます不謹慎で、だからこそ今読まれるべき小説になった。
 講談社・一八一五円。 (樋口薫)

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