稼ぐ人が偉いのか 『リボンの男』 作家、エッセイスト・山崎ナオコーラさん(41)

2020年2月23日 02時00分
 報酬一万円の仕事を一時間で仕上げたら、時給一万円。雑談で一時間を無駄にしたら、時給はゼロ円。では百円玉を川に落とし、一時間探しても見つからなかったら?
 「時給マイナス百円の男」。それどころか食費や家賃も含めて「時給かなりマイナスの男」と、卑屈に考えてしまうのが、本書の主人公・妹子(いもこ)こと小野常雄である。書店員の妻みどりが家計を支え、妹子は家事をしながら三歳の長男タロウを育てる。つまり専業主夫をしている。
 「私自身そうだったんです。時給いくらと考えてしまうタイプ」と山崎さん。しかし二〇一六年に子どもが生まれ、その考え方がストレスになった。「ほかの作家が海外で活躍したり、芸能人と共演したりする様子をSNSで見ていると、子どもと近場をぐるぐるしているだけの私の一時間って何なんだろうと」
 「悔し紛れ」にこう考えた。家事や育児も立派な仕事だ。社会を良くするための社会活動であり、消費を伴う経済活動である。すると何だか光が見えた。思考がつながっていった。「世の中、お金を得ることに重きを置きすぎじゃない?」「『稼ぐ人が偉い』みたいな考え方が、性差別にもつながるんじゃないの?」
 そして生まれたのがこの小説。「『どうも世間から責められている』という被害妄想」を抱いていた妹子は新たな気づきを得て、一歩を踏み出す。「世界を広げること」だけでなく「世界を細分化するのも成長なのかも」。その考えに励まされる読者は多いはずだ。
 執筆後に第二子を出産。「予想以上に仕事の時間がやりくりできなかった。仕事の人に会い、育児の話ばかり振られるのも気になってしまった」。焦りを感じ、昨年末ツイッターでつぶやいた。「『育児の人』と思われて、もう『文学の人』だと思われないことがつらくてたまらない」
 すぐ作家の小林エリカさんが返事をくれた。食事も育児も「生きること全てが、文学に違いない」。すごく納得した。「確かに家事も育児も文学活動だなと。そもそも今、文学が軽視され、地味で趣味的な分野だと思われがち。でも文学も社会を変え、経済を動かしている。その気持ちで書いていきたい」
 現代社会の「生産性」という呪縛を解きほぐす、軽やかな「経済小説」の誕生だ。河出書房新社・一四八五円。 (樋口薫)

関連キーワード

PR情報

本の最新ニュース

記事一覧