染みついた奴隷制の跡 強まる「歴史見直し」の叫び<米大統領選 再燃・人種差別(上)>

2020年6月20日 07時14分

13日、バージニア州リッチモンドでリー将軍の銅像撤去を求めて集まった人たち

 「ドイツ人がベルリンの中心にヒトラーの銅像など建てないだろう。こうして美化しているから、私たちは抑圧され続けている」
 米南部バージニア州の州都リッチモンドに十三日、数千人のデモ隊が集まった。十九世紀の南北戦争で奴隷制を支持した南部連合の首都。市中心部にそびえる南軍司令官リー将軍の銅像撤去を求め、黒人の投資家ビスマルク・アグベンブレさん(40)は訴えた。
 中西部ミネソタ州で黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警官に首を圧迫され死亡した事件は、米社会の根深い差別と格差の問題を一気に再燃させた。
 十九日は南北戦争に勝った北軍が最後の奴隷を解放した記念日。衰えを見せない抗議デモは今後、大統領選にどう影響するのか。その行方を探った。 (リッチモンドで、岩田仲弘)

13日、バージニア州リッチモンドで、「白人の沈黙は暴力だ」と書かれたプラカードを掲げ、リー将軍の銅像撤去を求めてデモ行進する人ら

 米国では今、奴隷制にまつわる歴史の根本的な見直しを求める動きが多方面に広がっている。「アント・ジェミマ(ジェミマおばさん)」で有名な老舗のパンケーキ関連会社は、ブランド名と黒人女性のキャラクターが白人家庭の乳母や使用人を思い起こさせるとして廃止を決めた。
 逃亡奴隷の取り締まりが起源の一つとされる警察制度の抜本改革を求める声も強まっている。黒人の警察OBチャールズ・ウィルソンさん(70)は「警察には黒人は貧しいから暴力的だ、という考えが長く植え付けられてきた」と語る。
 染み付いた構造的な差別意識を変えようという抗議活動が、一九六〇年代の公民権運動以来といわれるほど広がったのはなぜか。南部アラバマ州の人権団体「南部貧困法律センター」のレシア・ブルックスさんは「白人を含む多くの人たちが、白人至上主義が存在すると認め、何とかしなければと思うようになった」と分析する。
 リッチモンドの集会では白人の姿が確かに目立った。「黒人の命も大切だ」のプラカードに並び、「白人の沈黙は暴力だ」の標語も見つけた。抗議デモは初参加というソフトウエア技術者のケリー・ヤングさん(28)は「南軍の将軍らは自由、平等の権利を信じなかった反逆者だ。英雄神話があまりに長く続きすぎた」と語気を強めた。
 一方、南軍の子孫らによる歴史研究会に所属するジョニー・ネビルさんは「銅像は南北で多くの家族が引き裂かれた米国史そのものだ」と保存を主張する。
 こうした声を背景に、トランプ大統領は南軍の指導者らにちなんだ米軍基地名の変更を「受け入れられない」と反対。警察改革では警官による首絞めなどの原則禁止を求めたが、根深い差別には言及しなかった。
 十九日は、南北戦争に勝った北軍が南部テキサス州で最後の奴隷を解放した記念日を迎える。トランプ氏は当初、この日に南部オクラホマ州タルサで大統領選に向けた支持者集会を再開する予定だった。一九二一年、白人による黒人虐殺事件が起きた現場。さすがに開催を一日ずらしたが、そこに黒人に寄り添おうという姿勢はみられない。
 抗議デモの分布と動向を調査している東部ペンシルベニア州・ピッツバーグ大歴史学部のララ・パットナム教授によると、ジョージ・フロイドさんの暴行死事件後、約二週間で平和的なデモは全米三千〜四千地域に広がり「米史上前例のない規模」になった。しかし、トランプ氏はデモはあくまでも「無政府主義者による扇動」と強調し、「法と秩序」を訴え、白人の保守層にアピールする。
 ただパットナム氏は、デモの広がりからトランプ氏の戦略はもはや通用しないとみる。特にペンシルベニア州は前回二〇一六年大統領選でトランプ氏がクリントン元国務長官に得票率1ポイント未満の僅差で競り勝った激戦州。「州内で保守的な白人層が多く住む小さな郊外の町にもデモは広がっている。今回勝つのは至難の業ではないか」
 デモの様子を動画で見ることができます。

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