「深層」カルロス・ゴーンとの対話 郷原信郎著

2020年6月21日 07時00分

◆検察の「人質司法」鋭く批判
[評]内田誠(ジャーナリスト)

 東京地検特捜部に四度逮捕され、公判が開かれる前にレバノンに「不法出国」した日産のカルロス・ゴーン前会長については、そもそも有罪だとの心証を抱いている人が多いのではないだろうか。なるほど、自白しない限り保釈も許さず、長期間家族と引き離して取り調べる「人質司法」は怪(け)しからんが、日本的な常識に従えば「強欲」にしか見えない前会長には、自らの報酬を不当に増やし、CEOや会長の立場を利用して日産に損害を与えた罪があるはずだ…。そう感じている人が多いのではないだろうか。
 本書は、前会長逮捕以来、さまざまな媒体を通じて検察の捜査や対応を批判してきた著者が、前会長本人への六度にわたるインタビュー(六度目は出国後)を交えて容疑事実を子細に検討し、そのほとんどがおよそ犯罪とはみなしがたいことを明らかにしたものだ。また、検察と結託した日産の日本人幹部らによる「クーデター」の動きについても強く批判している。著者の郷原信郎弁護士は元特捜検事。かねて特捜検察による「人質司法」批判の急先鋒(きゅうせんぽう)であり、企業のコンプライアンスやガバナンスについての第一人者でもある。
 著者が検察側主張を一つずつ、いわば木っ端みじんに論破していく道筋をたどるうちに、ある一つの考えが浮かんできた。前会長がレバノンに向けて日本を「不法出国」したことは、日本の検察にとって結果的に好都合だったのではないだろうか。日産幹部らとの司法取引まで駆使して前会長を逮捕・起訴したものの、立証に堅固さはない。裁判では検察敗北の憂き目を見るかもしれない。そうなれば検察のメンツは丸つぶれだ。ところが、前会長が逃亡してくれたことで、もはや前会長の勝利はなく、検察の敗北もなくなった。
 前会長は「自由」を得たが、「不法出国」によって一般に「有罪」の心証を残し、そして事実上、二度と日本に入国できない。裁判が困難になった今、本書には検察の「逃亡」を許さないという重大な役割が生じている。
(小学館・1870円)
1955年生まれ。東京地検特捜部検事などを経て弁護士。著書『検察の正義』など。

◆もう1冊

レジス・アルノー、ヤン・ルソー共著『誰も知らないカルロス・ゴーンの真実』(東洋経済新報社)。林昌宏訳。

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