陰謀まみれ覚悟ある?『トリガー』 作家・真山仁(まやま・じん)さん(57)

2019年11月3日 02時00分
 外資系ファンドによる企業買収を描いた代表作『ハゲタカ』シリーズが、累計二百六十万部を誇る経済小説の旗手。作家生活十五年で、初の陰謀小説を出した。十代からフレデリック・フォーサイスやジョン・ル・カレら、海外のスパイ小説に親しみ、長年挑戦したいジャンルだった。
 「『ハゲタカ』を含め、陰謀色の全く無い作品は書いてこなかったと思います。でも今回は、インテリジェンスが暗躍するようなスパイ小説を正々堂々と書いてみようと。原点に戻った感じでしょうか」
 舞台は二〇二〇年夏。東京五輪の馬術競技会場で、韓国代表のキム・セリョン選手が凶弾に倒れた。大統領のめいで現役検事でもある彼女は、日米韓の安全保障に関する不正情報を手にし、秘密の捜査中だった。同じころ、在日米軍の女性将校と北朝鮮工作員が、日本国内で相次いで変死。元内閣情報調査室長の冴木(さえき)治郎は政府の命を受け、背後にある事実を解き明かしていく。
 日韓政府、警察、検察に潜伏工作員、米国の民間軍事会社…。登場人物が多く、思惑が複雑に絡み合う。上下巻を通して読み手を混乱させないよう、短い節を重ね「加速度を付けてスピード感をもって書いた」。
 〇四年のデビュー以降、企業買収や原発、地熱発電といったエネルギー問題、震災、メディアなど“社会派”のテーマに取り組んできた。今作も根底では、在日米軍や自国の安全保障の在り方を問う。
 だが、執筆で何より重視するのは「小説としての面白さ」という。社会派とエンターテインメントのバランスをどう取るか。ずっと考えてきたが「最近はテーマにウエートを置くのはやめ始めた」。その言葉通り本作も、合気道を極めた冴木や老練な工作員らが高度な駆け引きを繰り広げ、読者を魅了する。わくわくするような小説を書けば、テーマが自然と届き、問題意識を持ってもらえる-と信じている。
 「読んでふと『小説のような問題が本当に起きていたら嫌だな』と思ってもらえたらいいんです。社会を変えるには、どれだけ無関心の人に読んでもらえるかが大事ですから」。新たな時代に移り、さらなる高齢化など深刻な問題が顕在化するとみる。「こういう社会が来るけど覚悟していますかと、これからも小説で示したいですね」。KADOKAWA・(上)(下)各一六五〇円。 (世古紘子)

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