見えない苦しみ知って 『吃音(きつおん) 伝えられないもどかしさ』 フリーライター・近藤雄生(ゆうき)さん(43)

2019年10月13日 02時00分
 「この本に僕の原点がある。吃音のない人にこそ届けたいと思って書きました」
 かつて自身を悩ませた吃音をテーマにした渾身(こんしん)のノンフィクションが、予想以上の反響を呼び「ノンフィクション本大賞」候補に。二十年近いライター生活で最大の実績になった。
 さまざまな患者の人生と奮闘が描かれる。行間からにじむのは、自ら死を望むほどの苦しみや焦りだ。
 「話したときに『えっ』という顔をされるのが嫌でたまらない。みんなにできることができない劣等感。思っていることを言えないつらさ。でも周囲にはそれを見せまいと、一人で抱え込んでしまう。それが吃音です」
 抑制的な筆致で、標準から外れることや、少しの落ち度も許さない社会の息苦しさを浮き彫りにしてゆく。そして新人看護師の自死を追った第四章で、読者はふと気付かされる。これは「彼ら」でなく「私たち」の問題ではないか-と。
 東京大大学院で物理を専攻し、宇宙飛行士やエンジニアになる将来を思い描いた。しかし就職活動が近づくにつれ、吃音によるコミュニケーション難が壁になることを痛感。一念発起してフリーライターを志し、妻と海外を旅して回った。
 東南アジアや中国を巡り、五年後に帰国した。なぜか吃音が収まり、あらためて就職口を探すことに。しかし“空白期間”がたたって、ことごとく不採用になった。「日本では正規ルートを外れると戻るのが難しい。おかげで腹をくくって書こうと思えました」
 もともと大胆な性格ではない。吃音がなければ世界を旅しなかったし、フリーライターにもならなかった。「今もあってよかったとは思いません。でも、吃音がある人生も悪くないと思えるようにはなったかな」
 脳の器質の問題や精神状態、環境が複雑に絡み合う吃音は、医学が進んだ今も治療法が確立していない。自身も最近、症状がぶり返した時期があった。「吃音は僕の中で過去のことじゃない。患者の状況は切実で、この本を単なるハッピーエンドで終わらせられなかった」という。
 本書で手応えをつかんだ。次は念願のサイエンスノンフィクションに挑むつもりだ。「ライターとしての今の自分と研究者としての過去の自分が一つになるような本を書ければ」と意気込む。
 新潮社・一六五〇円。 (岡村淳司)

関連キーワード

PR情報