書店員の笑える?日常『店長がバカすぎて』 作家・早見和真(かずまさ)さん(42)

2019年9月22日 02時00分
 二〇〇八年のデビュー以来、青春小説や家族小説、ミステリーと、エンターテインメント小説のさまざまな分野を手掛けてきた。その中で最後まで避けてきたコメディーに取り組んだのが本作。話術で人を笑わせるのは得意だが「文章で人を笑わせるのは本当に難しい。書くのも慎重になった」と振り返る。
 刺激的な文言のタイトルは、書店を舞台にしたコメディーの構想とともに、自然と浮かんだ。主人公は、契約社員として働く女性書店員。中身のない話を長々と続ける頼りがいがまるでない店長のほか、出版社の営業担当やサイン会に招いた作家らに振り回される日常が、連作短篇としてミステリーを絡めながら描かれる。
 作家が書店員の物語を書くと内輪ネタと見られがちだが、自身は、業界に迎合したくなくて、むしろずっと避けていた。だが、本が売れない時代に「同じく本に関わる職業として、同じ方向を見てやらなければ」との思いもあった。本作は二〇一六年に松山市へ移住したのを機に、書店員に対して構えるのをやめたことで生まれた物語でもある。彼らから直接聞いた本を愛する気持ちの一方、収入も苦しく、やりがいだけでは心が折れそうな実情といった問題意識も織り込んだ。
 主人公は怒ったり嘆いたりするばかりで、わかりやすく笑えるエピソードは基本的にない。「自分にとっては悲劇でも、他人から見たらだいたい喜劇」という図式を描くことで「今まさに働いていて、生きていて苦しい人が、少しでも自分の状況を軽く捉えられるように」との願いも込めた。
 本の未来や、どうすれば本が売れるのかを貪欲に探ることも、今回のテーマの一つ。最終的に実現はしなかったが“特典”として、末尾にまだ日の目を見ない続篇の幕開け部分を入れるという挑戦的な仕掛けも考えた。「それくらいサービスしてみる価値はある。十年後の本づくりの正解は、もしかしたらこっちかもしれないし」
 さまざまなジャンルで書いてきて、これで「全てのますを埋めた」。改めて一番やりたいのは日本推理作家協会賞を受賞した代表作『イノセント・デイズ』のようなミステリーだという結論に達した。「自分の中でジャンルに上下はない。読者を驚かせるものを書きたいんだ」と意欲を語った。
 角川春樹事務所・一六二〇円。 (松崎晃子)

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