村の大事、どの国でも ジョゼ・ルイス・ペイショット著 『ガルヴェイアスの犬』 翻訳家・木下眞穂さん(51)

2019年10月6日 02時00分
 ユーラシア大陸の西端、ポルトガル内陸部の小村ガルヴェイアスを舞台にした物語だ。
 一九八四年、原っぱに宇宙から謎の巨大な物体が降り落ち、村は強烈な硫黄臭に覆い尽くされる。どうしようもない異常事態の下、次第に村人たち一人一人の人生があらわになる。五十年にわたる兄弟の確執、新任の女性教師への仕打ち、バイク事故、酒浸りの神父…。
 「がーん、というくらいにおもしろくて、これは訳さなきゃと勝手に使命感まで感じてしまいました」。その熱意が出版を実現させ、今年、優れた日本語翻訳作品に贈られる「日本翻訳大賞」を受賞した。
 作品に描かれた時代のポルトガルの空気がよく分かると言う。父親の仕事で一年間、首都リスボンで過ごした中学時代から、上智大ポルトガル語学科に進み、留学した時期に重なる。
 八四年は、四十年以上続いた独裁政権を無血で終わらせた「カーネーション革命」からちょうど十年。八六年には欧州共同体に加盟し、近代化の波にもまれていく。「グローバル化が始まる前の、ある意味でポルトガルがもっともポルトガルらしかった最後の時でした」
 著者のジョゼ・ルイス・ペイショットさん(45)は、同国の現代文学を代表する作家の一人。作品は、ポルトガル語圏の権威ある文学賞、オセアノス賞を受賞した。ガルヴェイアスは彼の故郷で、これまでも著作で描いてきた大きなテーマ。本作で村の名を初めて明らかにした。
 「作者は神の視点で語りながら、住民の一人であるようにも思えます」。一昨年、一年の半分は海外にいるというペイショットさんに村内を案内してもらうと、出会う人々が皆、親しげにあいさつをしていった。作品は二十以上の言語に訳され、どの国の人からも「うちの村も一緒」という反応があるという。「田舎のあまりにも細かいことだからこそ、反転して、普遍的です」
 巨大な物体の正体は最後まで分からない。だが、村人らはある出来事を機に、覚醒する。
 「村がどんどん過疎化していくのを目の当たりにしていますから、このまま終わってほしくないという願いだと思います。人々が動きだす。結果はわからないんですけれど」
 新潮クレスト・ブックス・二〇九〇円。
 (鈴木久美子)

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