コロナで広がった白人との格差、黒人票を動かすか <米大統領選 再燃・人種差別(下)>

2020年6月21日 08時03分

17日、米ニューヨーク市ブルックリンで「黒人の命も大切だ」と書かれたプラカードを掲げながらデモ行進する若者ら。人種の枠を超えて幅広い人々が参加している=赤川肇撮影


 ようやく見つけた安定した仕事、居心地のいい職場だっただけに、失った落胆は大きい。米南部テキサス州ダラス近郊で十歳と六歳のきょうだいを育てる黒人のシングルマザー、ラキシャ・ヒュバチェクさん(44)は「これからどうなるのか」と不安が絶えない。
 経理担当として三年間勤めたホテルから五月、「新型コロナウイルスの影響で業績が悪化し、夏も回復を見通せない」と解雇された。医療保険を失い、受ける予定だった背中の手術を断念せざるを得なくなった。「黒人が米企業で働くのは簡単ではない」。かつて勤めた企業では、自分より経歴が浅いはずの白人の同僚が「経験」を理由に先に昇進したこともあった。「実力を認めてもらうには最善を尽くすだけでなく、過剰な親切さや実力以上の力を見せなければならない。残念だけど」

ラキシャ・ヒュバチェクさん=本人提供

 人種差別に基づく経済格差は歴然としている。米シンクタンク・ブルッキングズ研究所の調べでは、二〇一六年の平均的な白人世帯の財産は十七万一千ドル(約千八百三十万円)だったのに対し、黒人世帯は一万七千六百ドルと、わずか十分の一。新型コロナの感染拡大がさらに追い打ちをかけ、米労働統計局によると、五月の失業率は白人が全国平均(13・3%)を下回る12・4%に改善した一方、黒人は16・8%に悪化した。
 差別と格差に対する黒人社会の不満が投票行動に表れれば、十一月の大統領選に大きな影響を与える。
 黒人投票率は一九九六年以降上がり続け、二〇〇八年には黒人初となる民主党のオバマ前大統領が誕生。一二年には初めて白人の投票率を上回った。だが一六年は二十年ぶりに下落に転じ、7ポイントも急落。八年間のオバマ政権に対する失望や、大統領選の同党候補だったクリントン元国務長官の不人気などが要因に挙げられている。
 黒人が人口に占める割合は全体の12%ほどだが、民主党支持は常に80%を超える。四年前、共和党のトランプ大統領(74)が当選する原動力となったペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン、フロリダの激戦州の得票率差は、1ポイント前後。黒人の投票率がわずかでも上昇すれば、結果は大きく動く可能性がある。
 近く民主党候補に指名されるバイデン前副大統領(77)は、オバマ氏と八年間、共に政権運営してきた実績から黒人の支持は根強い。白人警官に首を圧迫され死亡した黒人男性ジョージ・フロイドさんの葬儀にビデオメッセージを寄せ、「魂を刺すような人種差別から目をそらしてはいけない」と訴えた。
 一方、警察改革は支持するものの、デモ参加者の多くが求める警察予算の削減など急進的な政策には反対。五十以上のリベラル系団体は公開書簡でバイデン氏を批判し「黒人有権者の熱心な支持がないと当選できない」とけん制した。
 南山大の山岸敬和教授(米国政治)は「バイデン氏はもともと中道派。急進的な政策に偏り過ぎれば無党派の支持を得られなくなるというジレンマを抱え、難しいかじ取りを迫られる」と指摘した。
 (ニューヨーク・赤川肇、ワシントン・金杉貴雄)

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