<首都残景>(13)根津教会 木のぬくもりが迎える

2020年6月21日 08時16分

1919年に建てられた根津教会の礼拝堂。扇形に配置された長いすや曲線を描く天井に特徴がある=文京区根津で

 安らぎ、ぬくもり。心穏やかになるものが、建物全体から伝わる。文京区の根津教会。素朴な造りが、またいい。
 一九一九(大正八)年に建てられた。木造一部二階建て。壁面は横板の下端を下の板に重ねて張っていく下見板張りという工法で造られた。「雨水が中に入りません。アメリカの中部や東部で行われた建て方ですね」と教会関係者が説明する。道路に面した礼拝堂の壁面にはゴシック様式の尖頭(せんとう)アーチの大きな窓。横に塔屋がそびえる。壁面の青と塔屋の上にある三角屋根の赤が印象的だ。「教会の前でスケッチしたり、写真を撮ったり。そんな人々の光景をよく目にしますね」

赤い尖塔(せんとう)が目を引く根津教会。国の登録有形文化財になっている

 れんが造りの門から中に入ると、目を引くのが礼拝堂。正方形で、奥の隅に牧師が立つ講壇。それに集中するように木の長いすが扇形に配置されている。「長いすは講壇に向かって二列で並列に置いてあるのが普通。室内の形も多いのは長方形ですね。正方形、扇形は珍しいと思います」
 特徴はほかにもある。木骨がアール(曲線)を描いた高い天井、その中央から下がる唐草模様の鍛鉄製の照明器具。三つの明かりに聖なる雰囲気が漂う。「ここは音が木に柔らかく響いて音響効果がいい。合唱団の人たちは大変喜びます」
 年一回、コンサートを開いている。これまで近くの東京芸大生らが参加してきた。落語家の立川談志が根津に住んでいたが、立川一門の寄席も。催しを行うのは伝道の意識から。敷居を低くし、教会に来てもらおうという配慮だ。
 愛餐(さん)会という食事会も開放的な試みだ。礼拝の後、みんなで食卓を囲む。「食事を通じて本音の付き合いができる。十人でも十五人でも分けられるように、メニューはカレーやうどんですね」

新しくなった集会室には古いオルガンが残り、現在も使われている

 一九一〇年代の貴重な木造西洋館は関東大震災も、空襲も乗り越えてきた。「当時の建物が残っているのがすごいことです」。ただ、礼拝堂の屋根から雨漏りし、床は斜めになるなど老朽化が目立ち始めた。二〇〇九年、建物の耐火耐震化を含め増改築に着手。しかし、礼拝堂の内部や外観など建物の魅力は残した。重量感ある木の長いす、足踏みオルガンなど貴重なものも多く残る。
 誕生から百一年。「何世代もの人が来ています。それぞれが物語を持って」。小さな教会。しかし、刻まれた記憶はいくつもある。
 文・伊藤憲二/写真・木口慎子
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