<ブルボン小林 月刊マンガホニャララ> (14)メリハリ設定、ロマンス躍動

2020年6月22日 07時19分
 ネットフリックスのドラマ『愛の不時着』が人気だが、見てみたらこれが滅茶苦茶(めちゃくちゃ)、往年の少女漫画(的)だった!
 韓国の財閥の娘でアパレルブランドの社長でもある超セレブの女性が、パラグライダーの事故で北朝鮮に不時着。北朝鮮軍の中隊長に発見され、さてどーなる? という、まさに漫画みたいな導入。ヒロインと中隊長の間に生じる障壁の大きさを今日(こんにち)、これほどのメリハリで生じさせる面白設定をよくぞ思いついた。すぐに停電が起こるというだけでロマンスが盛り上がる盛り上がる!
 女性(主人公)が危険な目に遭遇し、間髪入れずに(イケメンによる)助けが入る。餅つきの杵(きね)と返しの阿吽(あうん)の呼吸のごとくにそれが繰り返される。
 王子様役の隊長も完全に少女漫画仕様。お国柄、そして職業柄、超四角四面な真面目男だが紳士で優しく、もちろん文武に秀で、料理も上手で実はピアノもプロ級(でもヤキモチ焼き)と完璧。そこに、少しチャラい詐欺師、年下で甘えん坊の兵士など脇にも「いい男」を取り揃(そろ)えて楽しませながらも、本命との恋愛を入念に育む。

河内遙『涙雨とセレナーデ』 *月刊『Kiss』(講談社)で連載中。既刊6巻。

 漫画だと河内(かわち)遙『涙雨とセレナーデ』が、似たようなロマンスに今、果敢に挑戦している。
 平凡な女子高生陽菜(ひな)が、明治四十年にタイムスリップしてしまう。自分と(なぜか)瓜(うり)二つの伯爵令嬢に助けられ、成り代わることで窮地をしのぐ。令嬢の婚約者に、幼時に出会っていた記憶のある陽菜は、徐々にその男に惹(ひ)かれていく。
 北朝鮮に不時着もだが、明治時代に放り込まれて一人きりなんて、現実に考えれば相当怖いことのはずだが、陽菜は少ししか怯(おび)えない。少しも怯えないとリアリティがないからちゃんと怯えるが、素敵(すてき)な男性との出会いに目を見開かせもする。
 格闘漫画の人物は殴られて血反吐(へど)を吐いて(ハラハラさせて)も、次の回では割とピンピンしてい(て反撃す)る。現実より頑丈に描けるのが漫画の特性で、肉体のことは絵でも分かるが、少女漫画では「心」が気持ち頑丈なのだ。

韓流ドラマのように盛り上がるロマンス。主人公のまなざしも熱い=河内遙『涙雨とセレナーデ』6巻から

 テレビドラマと違った漫画ならではの基本的特性に「目を大きく描ける」があるが、作者の描く女性のまなざしはエネルギーに満ちていて、涙にくれていてさえ心地よい、心の健全さ(=恋する気持ち)をまっすぐ手渡してくれる。
 まるで作者自身が明治時代に放り出されて戸惑っているかのように、当初は筋運びにオズオズした気配があったが、第二の王子様的な奇術師が陽菜を守ってくれるあたりから、謎も恋模様も躍動してきた。知らない時代を生きる「寄る辺なさ」と他者に「良くされる」ことの反復が、読んで嬉(うれ)しいリズムを刻み始めている。

内田春菊『ボトム』 *全1巻。4月発行。竹書房。

 今月はもう一作、ベテラン内田春菊の『ボトム』も紹介したい。無気力なゲイの男娼(だんしょう)が道端で少年を拾って、共に暮らすだけの話だ。男娼は少年のため奮闘しようとするが、体調を崩して倒れてしまい、あっさり終わる(未完の作かとさえ)。
 ここには「寄る辺なさ」しかない。なのに、簡潔なコマ運びで読ませるし、三日月のような「とがった丸み」のある人物の描線とで、ずっと記憶に残る。
 二作とも、作者が手探りで描いている、その手つきが感じられる。それも大人数で作るドラマにはない、漫画固有の醍醐味(だいごみ)だ。 (ぶるぼん・こばやし=コラムニスト)
 *次回は7月20日掲載。

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