<ふくしまの10年・牛に罪があるのか>(6)イノシシ わがもの顔

2020年6月23日 06時50分

群れをつくって食べ物をあさりに来るイノシシ=福島県富岡町で(坂本勝利さん提供)

 富岡町の畜産家、坂本勝利(かつとし)さん(82)は、牛の世話に避難先から自宅へ通った。そのたびに荒れ果ててゆく古里の姿に心を痛めた。
 無人となった町には泥棒が横行し、あるときは倉庫に積み上げてあった大量の飼料米や発電機が跡形もなく消えていた。
 「牛を生かすために友だちが分けてくれた米だった。がっかりしたね。言葉も出なくて、膝から崩れそうだった」
 農園や住居ではイノシシが暴れ回っていた。
 「近所にイノシシとブタをかけたイノブタを生産している農家があって、避難するときに放したんだな。最初はイノブタだからおとなしかった。ところがだんだんと野性を取り戻したんですよ」
 イノシシは多いときには四十頭もの群れをつくって、日中からやってきた。人の姿を見ても逃げず、わがもの顔で牛舎の中に入っていき、牛の飼料を食べた。
 丹精込めて耕してきた畑を掘り起こし、花を植えた石垣を倒し、住居にも侵入。かつては家族のだんらんの場であった座敷を踏み荒らした。

 「そのうちにイノシシがいることが日常になって怖いとも思わなくなった。それぐらい異常な世界だということですよ。異常さは十年近くたっても変わらない。今だって午後四時になると、かならずイノシシは出てきますよ」
 二〇一二年。近隣からの苦情を理由に県は被ばく牛の管理に乗り出した。坂本さんの牛舎を貸すことになり、三十頭もの牛が集められ、県の職員が交代で世話をした。
 ところが二〇一三年九月、東京五輪の開催が決まった。このころから、被ばく牛の殺処分を迫る国の暗黙の圧力が強まったと坂本さんは感じている。

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