感染症取り上げた漫画「リウーを待ちながら」に再注目 コロナ禍の現実とリンク

2020年6月23日 13時25分

朱戸アオ『リウーを待ちながら』1巻

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、感染症を扱った漫画『リウーを待ちながら』(講談社、全三巻)が話題だ。三年前の作品ながら、現在と重なる描写のリアルさが注目され、五月には緊急重版された。作者の朱戸(あかと)アオさんは「今がつらいことの裏返しでもあり、複雑だが、次の日常をどう過ごすか考えるきっかけになれば」と話している。 (清水祐樹)

◆新型ペスト流行の街を舞台に

 タイトルは、同じくコロナ禍で改めて読み直されている仏作家アルベール・カミュの小説『ペスト』の主人公で、奮闘する医師「リウー」の名と、不条理演劇として知られるサミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』をかけた。「リウーは、ある種の理想像。あんな人になれるよう、みんなで頑張ろうという意味を込めた」
 舞台は、陸上自衛隊の駐屯地がある架空の街・静岡県横走(よこばしり)市。主人公の女性医師が勤める病院で患者の死亡が相次ぎ、原因は自衛隊が海外派遣先の中央アジアから持ち込んだ新型ペストだと判明する。
 政府は緊急事態宣言を出し、横走市を封鎖。会員制交流サイト(SNS)や風評で悪意が拡散し、横走の関係者が苦しむ様子は、現実世界で起きた新型コロナ感染者への差別的対応や、帰省先でのコロナ感染確認後に東京に戻った女性への「私刑」とも言えるインターネット上での非難や中傷といった動きと重なる。

◆社会の混乱、作者も「予言のよう」

 日用品が不足する横走では、物品を「密輸」する小悪党も登場。こちらも、政令による規制にまで至ったマスクの転売問題をほうふつとさせる。

「新型コロナは世界のさまざまな矛盾を表面化させた」と話す朱戸アオさん(本人提供)

 作中の社会の混乱は、朱戸さん自身が「予言のようになってしまった」と苦笑するほど、コロナ禍での現実とリンクする。
 一方、密輸をとがめられた小悪党が「ペストは持てる者かどうかを区別せずに平等だから大好きだ」という主旨のことを言い切る場面については、「コロナ禍では、感染の危険を冒してでも仕事せざるを得ない人とそうでない人とが分かれた。現実は平等ではなかった」と唇をかむ。

◆攻撃対象探す社会に問題提起

 こんなやりとりもある。母親をペストで亡くし、オンライン授業を受ける横走の女子高校生が、市外の同級生との間に疎外感を覚え「悪いのは病気をここに持ってきた人達でしょ」と憤る。対して、主人公に協力する男性医師は、コスト面から環境基準の緩い国に養豚場が造られ、日本人が食べる安い豚肉と新型インフルエンザは同じメキシコの村から来たとし、「悪いのは新型インフルエンザを日本に持ち込んだ人かな?」と問う。
 トランプ米大統領による中国批判のように、「悪」を認定して攻撃対象を探しがちな社会への問題提起とも受け取れ、印象的だ。
 朱戸さんは「理由を考えるのは、人間の進歩の原動力だが、常に正解が分かるわけでもない」と指摘。「信じたものによっては、他者を攻撃することにもなる。それは人間の性(さが)だ」とし、物語を通して「自分の行動がもたらす結果を想像してもらえたら」と願う。
 『ペスト』からの引用もあり、「ペストと戦う唯一の方法は、誠実さということです」とのリウーの言葉も使った。ただ、「今は社会が試されている。誠実になるのはなかなか難しい」と受け止めている。

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