銭湯残せ 錦糸町に80年「黄金湯」 改装のピンチ 集まる寄付
2020年6月25日 07時00分
錦糸町の人たちに80年以上も愛されている銭湯「黄金(こがね)湯」(墨田区太平4)。経営者の引退、老朽化といったピンチを乗り越え、今年2月から改装工事に入ったが、新型コロナウイルスの影響で工事が一時中断。工事費は大幅に膨らんだが、「銭湯文化を守りたい」という人たちの熱い思いに支えられ、8月の再開を目指す。
JR錦糸町駅から東京スカイツリーに向かって歩くこと約十分。住宅街の一角に黄金湯の看板が見える。中では改装工事が急ピッチで進む。「入り口にはクラフトビールが飲めるビアバーを設置します」。黄金湯の姉妹店の銭湯「大黒湯」(同区横川三)店主の新保卓也さん(40)は完成を待ちわびる。
内装設計を手掛けるのは、米国の人気コーヒーチェーン「ブルーボトルコーヒー」(江東区・清澄白河)の店舗などを手掛けた長坂常さん。黄金湯の人気イベントだった「レコード市」の復活も予定しており、DJブースを設ける。新保さんの妻で改装後に店主になる朋子さん(42)は「若い世代にも銭湯に興味を持ってもらいたい」と期待する。
一九三二(昭和七)年創業の黄金湯は、天然温泉の露天風呂や薪で沸かす湯が人気だったが、経営者が老朽化と高齢を理由に引退を決意。徒歩五分の場所にあるライバル銭湯・大黒湯の新保さんが、「銭湯を残したい」と経営権を引き継ぎ、二〇一八年に姉妹店として再オープンさせた。
しかし、老朽化は想像以上だった。ボイラーや配管はぼろぼろ。利用者も一日約百人にとどまった。新保さん夫妻は「銭湯は廃業すれば、復活が難しい」と改装を決意。
今年六月中のリニューアルオープンを目指し、二月、改装工事に着手したが、直後に新型コロナが流行。中国からの資材の輸入が滞り、四月には緊急事態宣言の発令で工事が中断。工期の延期で工事費は増加した。
肝心の大黒湯も、銭湯は営業自粛要請の対象外だったにもかかわらず利用客が大幅に減少し、改装費が重くのしかかった。
危機を救ったのは、クラウドファンディングだった。五月下旬、三百万円を目標に資金を募集すると、開始からわずか五日で目標を達成。「銭湯文化は大事です」「銭湯で墨田区を盛り上げてください」など大黒湯の利用客を中心に多くのメッセージも寄せられた。メッセージを読んだ朋子さんは胸がいっぱいになった。「地道にがんばってきてよかった。たくさんの人が期待してくれているのがうれしくて…」と涙ぐむ。
現在は目標を六百万円に引き上げ、五百五万円が集まっている。
朋子さんは銭湯を「幸せ空間」という。
「ワンコインで一日の疲れを癒やし、幸せな気持ちで一日を終えてもらえるよう、新しいことに挑戦しながら銭湯を守っていきたい」
寄付はクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で「黄金湯」を検索。
文・砂上麻子/写真・木口慎子
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