主導する国家なく、ワクチンめぐる争いに 米政治学者が新たな世界を展望<コロナを生きる>

2020年6月25日 09時42分

イアン・ブレマー氏=ユーラシア・グループ提供

 地球規模で猛威を振るう新型コロナウイルスは国際社会をどう変えるのか。米国の政治学者で、リスク分析の専門家として知られるイアン・ブレマー氏(50)が新たな世界を展望した。 (聞き手=ニューヨーク支局・赤川肇)

◆急激な変化に直面

 新型コロナのパンデミック(世界的大流行)は私たちの一生で最大の危機だ。今まで認識はしつつも、きちんと対処してこなかった課題が一気に噴出しようとしている。これからの1年半ほどで、5年から10年分の変化に直面するだろう。
 国際社会はG7(先進7カ国)やG20(20カ国・地域)が機能不全に陥り、主導する国家が存在しない「Gゼロ」になった。今後はGゼロの世界が進展する一方で、国際協調は弱体化し、地政学的な争いが増えるのは間違いない。
 国際社会がまず直面する問題は格差の拡大だ。多くの労働者や中産階級は、政府や指導者らへの怒りを爆発させるだろう。科学技術による劇的変化は、市民社会も世界経済も変容させる。経済は実店舗営業や実体経済からバーチャル(仮想的なもの)やデジタルへと移行し、対応できない労働者ら大勢の人々が職を失うことになるだろう。
 労働することの重要性が低下すれば、どんな資本主義社会であっても雇用は減る。社会的なセーフティーネット(安全網)のほか、富の再分配のあり方、政府の役割などを根本から変えなければならない。権力構造はバランスを崩し、長期的な持続は難しくなる。

◆分断が進む米中

 地政学的な紛争で、最も懸念されるのは米国と中国の関係だ。米中の緊張はパンデミックを経験したことで、より論争的、直接的になった。トランプ政権は11月の大統領選を控え、新型コロナ対応の失敗を誰かの責任にしたがっている。大統領はその標的として中国に目を付けた。野党の民主党も中国との穏やかな関係を求めなくなっている。
 しかも時を同じくして、米中経済の相互依存が解消されつつある。科学技術分野では既に冷戦状態だったが、米国は医療分野でも自前のサプライチェーン(供給網)の構築を目指すはずだ。米企業への景気刺激策は資本や雇用の国内回帰につながり、さらに米中を分断する。日本やオーストラリアといった米国の同盟国の一部も、同じ方向に動くだろう。
 つまり、各国の戦略的な優先順位や、世界的なサプライチェーンがより地域に根差したものになり、グローバル化の流れを変える。米中冷戦は、かつての米ソ冷戦のような軍事的競争にはならないが、世界経済や科学技術をめぐる「実戦」になってしまい、経済成長を鈍化させる恐れがある。

◆Gゼロに代わる新たな秩序なく

 私は2011年に初めてGゼロという世界秩序の到来について指摘し、米国がリーダーシップを維持できなくなることを説いた。そもそも米国自体が望んでいない、同盟国の分裂や弱体化、ロシアの衰退、中国の成長など理由はさまざまだ。これら全ての要因が強まることで、Gゼロはより鮮明になる。
 これまでGゼロが大きな問題にならなかったのは、世界経済が順調だったからだ。今回のパンデミックはGゼロになってから初めての危機であり、私たちは指導者不在に戸惑っている。Gゼロに代わる新たな世界秩序がすぐに構築されるとも思われない。
 米国は同盟国に対してもアンバランスで強い力を持つ。米国企業は科学技術分野でさらに優位に立ち、エネルギーや食糧の輸出国としても圧倒的パワーがある。国際社会で大きな役割を果たす必要性はなくなっている。民主党も「米国が世界の指導役を果たすべきだ」とは言わない。バイデン氏が大統領選で勝利したとしても、(パンデミックによる)多額の負債や失業への対策を迫られる。トランプ大統領が主張する「米国第一」主義とやり方は違っても、自国中心主義へと向かっていく。
 一方の中国も景気後退に陥っており、米国が果たしてきたような役割を担う準備はできていない。

◆ワクチンをめぐる闘い

 パンデミックによる新たな課題もある。感染収束の切り札となるワクチンをめぐる闘いだ。100件を超える開発計画が国際協調もなく別々に進んでいる。どの国が最初に成功しても全世界に行き渡る生産はできないだろうし、知的財産が共有されるかどうかも疑問だ。これから「ワクチンの国粋主義」が大きな問題になってくる。

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