「持続化給付金」再委託問題 浮かび上がった4つの論点とは

2020年6月26日 05時50分
 新型コロナウイルスの影響で資金繰りに苦しむ中小企業などを政府が支援する「持続化給付金」の再委託問題は、事業を国から受注した一般社団法人サービスデザイン推進協議会(サ協)の不透明な実体が明らかになったことが発端だった。サ協はその事業を電通にほぼ丸投げ。身内への外注による予算の無駄遣いや、入札過程の不公平さなどの疑念は深まるばかりだ。一連の再委託問題から浮かび上がった主要な4つの論点を整理した。(桐山純平、森本智之、皆川剛、大島宏一郎)

 持続化給付金事業の再委託 経済産業省中小企業庁は4月30日、769億円で持続化給付金の委託先として一般社団法人サービスデザイン推進協議会(サ協)を決定。5月1日から給付金の受け付けを開始した。業務の流れは当初公表されていなかったが、実際はサ協が委託費の97%に当たる749億円で電通に再委託していた。電通からは、パソナやトランスコスモスなどサ協の設立に関与した企業に業務の外注が繰り返されていた。事業に関係している企業は判明しているだけで63社に上る。業務運営の不透明さや予算の無駄の疑念が晴れず、経産省はサ協に対して業務執行体制をチェックする異例の「中間検査」を行うと表明している。

◆論点① 給付金事業を受注した法人の実体の乏しさ


 問題の発端は、サ協が769億円で持続化給付金の事業を受注したことだった。当初、経済産業省はサ協から先の業務の再委託先や外注先を公表していなかった。
 5月中旬にサ協の本部を訪れると、インターホンに応答はなく「お問い合わせは(給付金の)コールセンターまで」の張り紙が貼ってあるだけだった。電話番号は公表されておらず、ホームページの情報もほとんどない。サ協は法律で義務づけられている決算開示も怠っており、国の事業を担う実体の乏しさが鮮明となった。
 サ協は委託費の97%に当たる749億円で、法人の設立主体である電通に事業をほぼ丸ごと再委託していた。委託費と再委託費の差額20億円がサ協に流れ、野党から「中抜き」批判が上がった。
 この20億円について、サ協は給付金の振込手数料が大半と説明。電通やパソナなど設立に関与した企業からの出向者である職員21人の人件費などに1億8000万円かかるとする。国の事業に詳しい公認会計士は「一般論として、人件費に見合った勤務実績があるのか疑わしい事例も多い」と指摘する。
 法人の設立には経産省が関与していたのではないかという疑惑も浮かぶ。法人の設立時の定款をインターネットで調べると、ファイルの作成者名に経産省部局が記されていた。タイトルも「補助金執行一般社団法人(仮称)定款(案)」となっていた。「執行」は役所の立場からの表現だ。
 経産省は疑惑を否定するが、設立からわずか4年で14事業計1576億円の事業を受託するなどサ協が同省と密接であることは間違いない。

◆論点② 何層にも重ねられた外注


 「トンネル法人」との批判も上がるサ協を抜けると現れるのが電通だ。電通も再委託額の86%に当たる645億円で、給付実務の全てを子会社5社に外注する。うち4社もまた外注を重ねる。特に、電通ライブは申請受け付け業務の99・8%をパソナや大日本印刷などに発注し、何のために名を連ねているのかという疑問は拭えない。
 現時点でサ協や電通は4次下請け以降の詳細を明らかにしておらず、給付金業務に全部で何社が関わっているのか分からない。経産省は「末端の企業まで国が知る必要はない」(担当課長)として把握に消極的だったが、野党議員の再三の求めを受け、6月23日に「把握したい」と修正。少なくとも63社が関わっていると国会で説明した。
 業務に対するチェックが隅々まで行き届いているとは言いがたい。
 実際、給付金では申請から1カ月たっても支給されない事例が相次いだ。本紙の取材に審査業務に当たる派遣社員は「素人が大半」と証言する。
 子会社や身内企業内での外注は、競争がなく費用が下がりにくい。経産省は外注費の高騰を防ぐため、発注先に相見積もりを取るなどのルールを定めている。だが、今回の委託で電通や子会社が費用を抑える手続きを取ったかどうかを調べ、公表することに後ろ向きだ。

◆論点③ 入札が「出来レース」だった疑いも


 電通が設立に関与したサ協が給付金事業の委託先に選ばれたことについて、安倍晋三首相は「入札のプロセスを経て落札された」と国会で述べ、適切だったとの認識を示す。だが、4月8日の入札公示前から、経産省がサ協を優遇していたことが判明。入札が「出来レースだ」という疑いが生じている。
 入札には、サ協とコンサルティング会社・デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー(デロイト)が参加。経産省は事業の制度設計を目的に、公示前の3月30日から4月3日までにサ協とデロイトにそれぞれ面会した。面会はデロイトが1回で1時間だったのに対して、サ協は3回の計3時間。サ協との協議には、事業の再委託先となった電通も同席していた。
 入札公示の2日前には、サ協はすでに給付金のウェブサイト用のアドレスを取得。受託の決定前に準備を着々と進めていた。
 公示からわずか5日後の13日に入札は締め切られ、翌14日には経産省はサ協の落札を決めた。入札は価格だけでなく提案内容も審査される「総合評価方式」で行われ、双方はともに200ページ近い提案書を経産省に提出していた。入札制度に詳しい上智大の楠茂樹教授は「わずか1日で提案内容の評価を決めるのは難しい」と指摘し、複数の点で入札の公平さが疑われている。

◆論点④ 経産省と電通の蜜月ぶり


 取材を重ねる中で徐々に鮮明になったのは経産省と電通の蜜月ぶりだ。
 バブル崩壊後に始まった一連の行政改革で国の公務員の数は減らされ、この20年で6割減の30万人になった。人が減ればこなせる業務量も減る。「官から民へ」の旗印の下、多くの業務で民間委託が進んだ。中でも政策実行の手足となる出先機関の乏しい経産省では民間との分業は必須になった。こうした中で電通は官公庁事業の売り上げを増やしてきた。
 経産省によると、電通が本年度までの6年で一般社団法人を通じて経産省から受託した事業は72件ある。このうち59件にのぼるのがサ協より5年早く設立された先輩格の環境共創イニシアチブだ。
 経産省や信用調査会社によると、設立は2011年。それまで省エネ関連事業を経産省から受注していた独立行政法人が民主党政権の事業仕分けにより受注を継続できなくなった。組織のスリム化が図られ、受注事業の選別を求められたのだ。
 困ったのは経産省。そこで新たな受け皿として電通が設立に動いたのが環境共創だった。「渡りに船だった」と当時を知る省幹部は言う。
 別の経産省職員によると当初、環境共創の職員は電通の名刺を使って省内で営業していたという。「そうでなければ無名の社団など誰も相手にしない」と電通と一般社団法人の一体ぶりを証言する。
 いまや経産省と電通の関係は強固だ。これまでサ協に事業委託をしてきた担当課長は「難しい事業でもすばらしい実行力でこなしてくれた」と賛辞を惜しまない。持続化給付金問題で批判にさらされる中、環境共創の幹部の1人は取材にこう漏らした。「うちがやめると困るのは国の方だ」

一般社団法人サービスデザイン推進協議会が入るビル=東京都中央区で


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