<ふくしまの10年・牛に罪があるのか>(9)後世のために決断

2020年6月26日 08時05分

牛がいない牛舎の前で、10年を振り返る坂本勝利さん=福島県富岡町で

 二〇〇七年七月の新潟県中越沖地震を受け、富岡町議だった坂本勝利(かつとし)さん(82)は、町議会の一般質問で熱弁を振るった。
 「町民の生命、生活を守るため、東京電力に万全の備えを求めなければならない。もしもかなわず、原発に事故が起きれば、私たちの古里は、有名な杜甫(とほ)の詩にある『国破れて山河あり 城春にして草木深し』の惨状を呈するに至るのではないか」
 しかし二〇一一年三月、恐れていた大地震は発生し、福島第一原発は津波で破壊された。故郷は杜甫の詩のそのままの姿になった。
 一二年にまとめられた東電福島第一原発事故を巡る国会事故調査委員会の報告書。〇六年に改定された新指針を満たすには、八百億円程度の耐震補強工事を実施する必要があったが、1〜3号機と6号機では全く実施されておらず、4、5号機で限定的に実施されただけと指摘。東電は先送りし、国も遅れを黙認していたとも指摘している。

 人間は大きな過ちを犯したが、牛に罪はない。だからこそ牛を死なせてはならないと、坂本さんは考えてきた。
 だが月日が経過し、被災地の環境は変わり始めた。
 坂本さんの農園がある一帯は帰還困難区域として、人の出入りが制限されているが、一八年に特定復興再生拠点区域に指定され、優先的に除染されることになった。百年は人が住めないだろうといわれた汚染地域を、二三年春ごろから住めるようにしようという計画だ。
 ただ、除染が済んでも以前のように牛を飼えるかどうかは分からない。「後の世代のことを考えたら見切りをつけて前を向かなきゃいけないと思ったんです」。坂本さんは昨年十月、殺処分を受け入れる苦渋の決断を県に伝えた。

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