デモ記録さえ「非合法」に 自由な空気、むしばむ中国

2020年6月27日 06時00分
<香港危機 「国家安全法」前夜(上)>

昨年11月18日早朝、香港理工大付近でデモ隊員を拘束する警察官=AP・共同

 香港政府への抗議活動が激化していた昨年11月、九竜地区にある香港理工大に学生らが立てこもり、警官隊との間で火炎瓶と催涙弾の応酬を繰り広げた。
 香港の詩人・作家の鄧小樺(42)は一部始終を見届けようと4日間にわたって大学構内にとどまった。顔見知りの学生らが逮捕などで次々に姿を消していく中、「彼らを見捨てて離れることはできなかった」という。食料を配るなどの支援を続け、1300人以上の学生らとともに逮捕された。
 抗議活動はこの時以降、勢いを失った。一連の活動で逮捕者は8000人以上に上り、命を落とした若者も少なくない。鄧は「多くの香港人が多大な犠牲を払った。その犠牲は記憶に値する」と話す。
 しかし香港国家安全維持法によって抗議活動のみならず、それを記録し、議論することすら難しくなる恐れがある。鄧は「恐怖は大きい。私自身の創作活動や身の安全にも影響があるかもしれない」と身構える。
 一方、抗議活動の過激化は、中国政府にとって直接介入の口実となった。理工大の攻防に先立つ昨年10月、共産党の重要会議は「香港で国家安全を守る法制度と執行のしくみを確立する」と決めた。
 中国政府は「香港市民の自由と権利は損なわれない」(国営新華社)と「一国二制度」の堅持をうたう。今月公表された法案の概要でも、香港の憲法にあたる基本法などが定めた言論や出版、デモなどの自由を尊重すると明記した。
 しかしすでに出版や言論の自由の侵害が始まっている。毎年100万人規模の来場者が訪れる「香港ブックフェア」の主催者は、開催を1カ月後に控えた6月中旬の記者会見で、出展者に「非合法な本」を扱わないよう「自己規制」を求めるとともに、来場者にも「『非合法』な本がないか見張ってほしい」と呼び掛けた。「非合法」は香港独立の主張や中国共産党への批判などを指すと受け止められ、複数の香港メディアが「密告の奨励」と報じた。
 社会科学などの専門書を扱う出版社の経営者は「(中国でタブー視される)天安門事件や中国の指導者に関する本の出品をためらっている」と明かす。さらに「香港の出版社は、昨年から続く抗議活動に肯定的な書籍の発行に二の足を踏んでいる」とも指摘し、今後は「香港独立」などの言葉をタイトルに含む本は出版できなくなると予測する。
 鄧は「香港の自由な雰囲気は失われつつあり、政治的、文化的な自由などを求める訴えが今後、圧迫されるのは避けられない」と悲観的だ。香港にとって「歴史的な関門」が迫っていると話し、「それでも文学者として声を上げ、デモ参加などを続けたい」と覚悟を語る。(敬称略、中国総局・中沢穣)

鄧小樺氏=本人提供

 国家分裂や政権転覆などを禁じる香港国家安全維持法が30日にも成立する見通しだ。同法はいかに香港の「高度な自治」を変えうるか、その影響を探った。
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