アインシュタインの影 ブラックホール撮影成功までの記録 セス・フレッチャー著

2020年6月28日 07時00分

◆執念で切り開いた挑戦の軌跡
[評]近藤雄生(ゆうき)(ライター)

 史上初めて、ブラックホールの撮影に成功した――。昨年四月、その一報が世界中を駆け巡った。
 撮影されたのは、地球から五千五百万光年離れたおとめ座銀河団にある楕円(だえん)銀河M87の中心部の巨大ブラックホールである。二百人以上の研究者からなる国際協力プロジェクト、イベント・ホライズン・テレスコープ(事象の地平望遠鏡、EHT)の何年にもわたる挑戦の成果だった。
 この本は、そのプロジェクトを率いたアメリカの天体物理学者、シェップ・ドールマンを中心に、彼らが撮影に成功するまでの日々を描いたノンフィクションである。
 EHTは、北米、南米、ヨーロッパ、南極の各大陸とハワイにある計八つの電波望遠鏡から成っている。それらをつなげて一つの巨大望遠鏡として解像度を極限まで高めれば、ブラックホールも撮影できるはずだ。そう確信してシェップらが動き出したのは二〇〇〇年代中頃まで遡(さかのぼ)る。 
 シェップらの前には、技術面のみならず数多くの難題が立ちはだかった。特に巨額の資金を集めたり、思惑の異なる研究者に必要な理解を求めたりするのが容易ではなかった。もう無理かと思わせる局面もあった。しかし、執念のような努力や工夫で、道を切り開いていったのである。
 本書にはその過程が丁寧に描かれている。関係者らの内面までが活(い)き活きと書かれているため、彼らが経てきた駆け引きや交渉、そして歴史的撮影の瞬間を、ドラマを見るように追うことができる。その中で、どんな難題にもめげずに立ち向かうシェップの姿勢には、未知のものを見たいという科学者の情熱とともに、栄誉を渇望する人間臭さも覗(のぞ)き、惹(ひ)きつけられる。
 読後はきっと、表紙カバーの画像が違う重みで見えてくるはずだ。そしてこの一枚が、ブラックホール研究の第一歩に過ぎないことも知るだろう。本書は、ブラックホールについての解説や関連する物理学の歴史、各種技術の説明も充実している。科学的にもかなり読みごたえのある一冊に仕上がっている。
渡部潤一・日本語版監修、沢田博・訳(三省堂・2200円)
『サイエンティフィック・アメリカン』誌特集担当編集長。米ニューヨーク州在住。

◆もう1冊

本間希樹(まれき)著『巨大ブラックホールの謎』(講談社ブルーバックス)

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